厳しい現実を見た日（前編）

忘れもしない、初春の出来事。
ターゲットは妻子と共に暮す営業サラリーマン。
写真を見た時はごく普通の人だったし、予備調査で実物を見た時も非常に誠実そうな印象だった。


依頼主は奥様。
ターゲットの言動に、なんとない不審を感じての依頼。
喋らない日は全く喋らず、かと思うと急に食事に誘ってきたり。
仕事から帰ったかと思うと、個室に篭ってなにやらパソコンに没頭。
携帯電話で話をしては、ちょくちょく外に出かけるそうである。
休日も、夕食時には帰ってくるが、午前中は出かけているらしい。
ただ、外泊は無いとのこと。

【調査１日目】

初日はターゲットが退勤後の行動を調査する。


２１：００頃、一人で会社を出たターゲットは、何事もなく帰宅。
携帯電話の操作は多かったが、通話は一回。
特に目立った行動も無かったが、コンビニに立ち寄る回数がやたら多いのが気になった。
購入品は「煙草」と「飲料水」。


【調査２日目】

再び勤務先からの調査。
前日と同じく、２１：００頃に終業。
この日は同僚の男性と共に出る。しかし、最寄駅で別れて１人に。
前日同様、携帯電話の使用頻度は高い。しかし女性と話しているようには見えない。
帰宅途中、書店、１００円ショップ、レンタルビデオに立ち寄る。
しかし何を購入するわけでもなく、最後にコンビニで「煙草」と「飲料水」を購入して帰宅。

今回は、帰宅後もしばらく様子を見ることにする。
すると深夜、ターゲットは再び外出した。


まず近所の公園に行き、喫煙。
その後、公園の施設で身体を動かし、数十分で帰宅。
（なんだったのか？）

そして、そろそろ今日の調査も終了かと思った頃、再び外出。
今度は近所の散歩。コンビニに立ち寄り「煙草」と「スナック菓子」を購入して帰宅。
結局、今日も女の影は見えなかった。

【調査３日目】

休日。朝から自宅を張り込む。
昼頃、ターゲットが一人で外出。服装はカジュアル。結構決まっている。

（今日は女に会うのだろうか？）

ターゲットは電車で都心へ向いパチンコ屋へ。
そこを約一時間で店を出て一人で定食屋へ入り、新聞を読みながら食事。
店を出て電車に乗り、住宅街を歩き、とある河川敷の運動場に辿り着く。


そこで、暫く座り込む。
天気が良いせいか居眠りをはじめる。
目を覚ますと、なぜかジョギングをはじめる。
その後も、運動場内を歩き回る。


そうこうしているうちに夕刻。日が暮れかかってからようやく移動。
電車に乗り、自宅の最寄駅に戻る。
その後、コンビニで「煙草」と「飲料」を購入し、帰宅した。

（なんだったのだろう？　今日のは？）
別におかしくはない。女性と会うわけでもない。
しかし、なんだか不思議な行動の一日だった。

【調査４日目】

今回はターゲットの勤務中の行動を調べる。
営業マンなので勤務中に抜け出して女と会っている可能性もあるからだ。


定刻の９：００に出社したターゲットは、外回りの営業に出かけ、夕方、会社に帰るまで黙々と企業まわりをしていた。
休憩は途中、一人で食事をした時だけ。サボる様子もない。
それどころか、電車で移動中も持ち歩いているノートパソコンを使って仕事。
携帯電話で何度も取引会社とやり取り。

営業マンの鑑とも言うべき姿。
正直感心し、疑われているターゲットに同情を覚える。
（この調査の料金にしても、ターゲットがこうして懸命に働いて得た給与から出ているのだろうし……）
仕事を終えたターゲットは、いつものように帰路につく。

コンビニ２軒に立ち寄り、帰宅。購入したのは「煙草」と「飲料」
やはり女の影はない。

【調査５日目】

引き続き朝から調査。
営業先の違いはあったが、昨日と同じく営業マンのお手本のような働き振り。
本当に「こういうサラリーマンが日本を支えているんだな。」と心から思える程だ。
そして、いつもと同じようにコンビニに立ち寄り「煙草」と「飲料」を購入して帰宅。
女の影はない。しかし、ここにきておかしな点に気がついた。



（煙草の数が多すぎる…………）


続く



尾藤