●更新日 03/10●


ゲイン・マナドックの犯行理由


荒木です。


ある目的のためにわざと犯罪に手を染めて逃亡するケースもある。
賞金首ゲイン・マナドック(37歳)は、そんなひとりだった。

彼は職場の同僚を殴りつけて傷害で逮捕、のちに起訴された。
LAベイルボンズが公判まで身柄を自由にしてやったが姿を見せずに逃亡してしまった。
報酬の額は二千五百ドルである。

私がマナドックに興味をそそられたのは逮捕時のプロファイルであった。
勤勉で素行も申し分ない人物が何故にいきなりブチキレて他人に危害を及ぼしたかということだった。


テキサス州のエルパソの実家が初動捜査の手掛かりになると踏んだ私は行動に出た。
獲物の家の近隣で張り込みを始めて三日目の夜、車に乗ったマナドックがガレージから出て来た。
本人に悟られぬように車間距離をとって尾行を続けた。

二台の車は北東へ進路を取り、純白の砂が果てしなく続く国定ホワイトサンズパークに近くなった地点で距離をおいて停車した。


私は後部トランクから12ゲージ・レミントン社製ショットガンを取り出して、開いた車のドア陰からマナドックへ向かって大声で呼び掛けた。

「バウンティハンターだ! マナドック、おまえをロス連れ戻す!」

沈黙の静寂があたりを包んだ。
数分を経過した頃に車のドアが開いて、両手を高く挙げたマナドックが姿を見せた。

「被弾して頭が粉々に吹き飛ぶような銃火器を向けられて抵抗するアホなんかいやしねえぜ」

用心しながら獲物に近寄り、後頭部に銃口を向けたまま手錠を出して拘束を試みようとした瞬間、隙をつかれて素早き身のこなしでショットガンを奪われてしまった。
その銃口を誇らしそうに私に向けてマナドックが罵声を吐いた。

「甘いんだよ、弾丸ひとつで簡単にこの世とバイバイさせるわけにはいかないよ。糞バウンティハンターめが!」



そう言い捨てるとマナドックはショットガンを放り投げてボクサースタイルで仁王立ちした。
あろうことか銃撃戦にはならずに砂漠をリングに変えて素手による闇夜の荒野の決闘になってしまった。
獲物に随分と殴打されてしまったが、苦し紛れに力をふりしぼって身柄を拘束した。
そして無事にロスの留置場へと護送してやった。

何故にマナドックは銃火器を撃たずに放り出して拳で向かってきたのだろうか。
それは数年前に交通事故で亡くなったマナドックの弟のマイクが原因だったのである。

バイクに乗ったマイクに車でブチ当たった主の職業は私と同業のバウンティハンターだったのだ。
不慮の事故でも最愛の弟マイクの命を奪ったハンターを憎んだマナドックは、わざと傷害事件を引き起こして投獄された。
そして貯蓄は十二分にあるにも関わらずにベイルボンズに保釈保証申請をして逃亡を図れば必ずハンターが追跡してくるに違いないと計算したのが理由である。

ある意味で物悲しい逃亡者の性が垣間見れた事例だった。



バウンティハンター



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