●更新日 08/21●


遺族の10年 神戸児童連続殺傷事件


『地獄の底でのた打ち回るような日々』が始まった。

神戸児童連続殺傷事件で、愛娘彩花ちゃんを亡くした母、山下京子さんの言葉だ。
最愛の人を無残な形で失う辛さは、誰もが経験することではない。
昨日まで笑っていた大切な人が、他人の手によって理不尽に奪われる。
その事実をどのように受け入れていくのか、私には想像も出来ない。

山下彩花ちゃん(当時10歳)

地獄の底から這い上がろうと必死にもがいた山下家。
あの事件から10年が経った。

彩花ちゃんの最後はこぼれるような笑顔だったという。
1週間、生きているのが不思議だと言われた状態で意識が戻らなかったにも関わらず、最後は笑顔だった。その笑顔を見て、生き抜くきっかけをもらったという。

しかし、世間は放っておいてはくれない。
霊安室を出た途端、マスコミにマイクを突きつけられた。
貸した写真は、彩花ちゃんの顔だけが切り抜かれてテープで留められて京子さんの元に戻ってきた。
取材依頼の電話は鳴り止まず、深夜でも玄関の戸を叩く。
遺族の悲しみを理解しようとする前に、この残虐な事件に世間が食いついた。
結果、京子さんと夫賢治さん、兄の幸太さんは一時、離れ離れの生活を送った。

10年間で3冊の手記を出版した京子さんは『彩花の軌跡を残さないと、運の悪いかわいそうな子だけで終わってしまう。そしてこの事件で子供を産み、育てることが不安になってしまった人がいるのではないか。』と思ったからだ。
この本は多くの人達に勇気を与え、1000通を超える反響が京子さんの元に届いた。

山下京子さんの手記 

反響に目を通す京子さん


深い絶望の淵から必死で這い上がってきた10年。
大切な人を失った辛さはそう簡単には癒えることがないだろう。
にもかかわらず、強く強く生きてきた山下家は、加害者側の家族にも目を背けることなく向き合い続けた。そしてついには加害者の身内の心配までするようになったという。
「A君(酒鬼薔薇)のお父さんが以前より随分元気になってきた。弟達もけなげに生きている。良かった」と語った。


愛する人を失った人にしか分からない辛さがあり、この辛さを経験したものでしか辿り着けない境地があるのだと思う。
この強さや逞しさは、身に着けようとして身に着けられるものではない。
そしてまた不思議なことに、立派な人ばかりがこのような出来事に遭遇する気がしてならない。

『神はその人が耐えられない苦しみは与えない。』
昔はこの言葉を酷く無責任に感じていたが、そうではなかったと今は思う。


『苦悩の真っ只中で立ち上がったとき、人生は思いがけないほど美しい光景を見せてくれる。』
母、京子さんのこの言葉に心を打たれる。

それでもまた涙は溢れるでしょうが、どうか、どうか、変わらず前に進んでください。



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