●更新日 10/26●

80歳になった日〜介助者の立場から


脚、ベストの左右ポケットに1kgずつ、腕に750gの負荷。
高音域が聞こえにくい耳栓、ヒジとヒザと手の指は曲がりにくく、白内障を想定したゴーグル。
これが今回の装具だった。

「何もしてあげられなかった」
率直な感想である。
介助のインストラクターさんがいなければ、一二三を大怪我させてしまっていたかもしれない。
普通に見え、聞こえるという立場の人間から、体力の衰えたお年寄りの行動がここまで困難だとは思いもよらなかった。



上は、擬似白内障ゴーグルの視界。オレンジ色の部分からは、ほとんど見えない。
脳は情報の85%を視界から得るというが、これではほとんどの情報がカットされているのと同じだ。
ゴーグルをかけた後、一二三があれほど不安がっていたのも頷ける。

擬似高齢者に寄り添って歩いている間、何より重要だと感じたのはメンタル面のケアである。
当初「バリアフリーな街づくりへの課題」がテーマだと思っていたが、それは大きな勘違いだった事がよくわかった。
肉体的な不自由さより、精神面の落ち込みが激しい。
駅でサラリーマン風の男性から声を掛けられた時、一二三は一言も会話しなかった。 普段は人よりも大きな声でハキハキと話をする彼女が、だ。
動くだけで精一杯で、会話すら煩わしいようだった。
若く体力のある、一二三でさえそうなのだ。

彼女の口からは、わずか1時間半の間に「悲しい」という言葉が2度、最後には「鬱になってきた」という言葉が出た。


 ▲目の前にお年寄りが立っていても寝たフリ

強い孤独感と疎外感。

その心を理解してあげるのは非常に難しい。
しかし「何か力になってあげられれば」と思っている人も必ずいるはず。

お年寄りが困っている場面に出あったら「お手伝いできる事ありますか?」と声を掛けて欲しい。そして声を掛けられたら、遠慮なく使ってもらっていい。決して恥ずべき事ではない。誰しも何十年後にはそういう将来が訪れる。

高齢者や障害者がより暮らしやすい社会作りの第一歩は、心の歩み寄りからスタートするのではないだろうか。



kubo 



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