●更新日 08/16●

無名殺しの週刊現代


少し前の話になるが7月10日号の週刊現代に『次が最終公演か、仲代達矢ご乱心、「無名塾」存亡の危機』という、ページのスペースを埋めているだけの記事がある。
無名塾とは俳優・仲代達矢が開く俳優養成塾のことであるが、役所広司や若村麻由美を輩出したその塾が30年近い歴史を閉じようとしているのだという。
記事によるとどうやら、その原因となっているのが仲代の付き人である、女優の卵のAさん。
Aさんが他の塾生のあることないことを仲代に吹き込んでいるために、塾内の人間関係が悪化。
塾の制作プロデューサーが辞める事態にまで発展し、無名塾を存亡の危機に導いているというのだ。

記事を面白くするのに悪役として登場させられているAさんであるが、失礼だがお世辞にも大衆が興味を持てるような存在とは言えない。
Aさんがテレビ等で活躍中の女優であるならいざ知らず、世の中にごまんといるような女優の卵。
8月16日の週間オリコンチャート雑誌部門で、週刊新潮、週刊文春に続く第3位という有力媒体が、まだまだ一般人に近い存在である無名の彼女をここで叩く必要がどこにあるのか。
小規模団体である無名塾の中において、「Aさん」なる人物は内部ですぐ特定されることである。

無名塾が存亡の危機にあると言っても、彼女が何か警察沙汰になるようなことをしたわけではなく、この話が事実としても身内の内輪揉めという域を脱していない。
彼女が無名塾を潰す一番の原因であるような書き方をしているが、元々仲代が自分の豪邸の庭で勝手に開いた塾。学費を取るわけではなく利益至上主義の組織でもないから、潰れる時は放っておいても潰れるし、潰れたからと言って「Aさんが悪かった」とは言えない。
だいたいタイトルの「仲代達矢ご乱心」とあるが、ご乱心の部分がどこに書かれているのかもさっぱりだ。

さらにこの記事、タレコミ情報をそのまま垂れ流しにした一方的な記事であることに大きな問題がある。
以下は週刊現代が鵜呑みにしたタレコミ情報等(青字)と、のちに当記者が確認したもの(黒字)の比較である。

「入塾後3年間は毎日義務づけられていた稽古はストップし、」

→稽古は義務制ではなく、塾生の自主性に任されている。仲代本人が個人稽古をつけるのは基本的に朝なので、塾生は自然と毎朝早くから稽古をするようになっているだけ。それを義務と感じるかどうかは塾生本人の意識による。稽古もストップしていない。

「塾生の募集もなくなりました」

→塾生の募集は今年たまたまなかっただけ。それは今年に入って仲代本人が俳優業に忙しく、新人をとっても稽古をつけられないだろうと判断したため。塾生を取らないことは開塾以来初めてというわけではなく、以前にもこういうことはあったので塾消滅の理由にはならない。

「9月からの公演が事実上最後の公演になるでしょう」

→9月からの公演が始まってもないのに次の公演を発表できるわけがないということ。それ以降も計画しているとのこと。

「仲代ももう71歳。年齢を理由に無名塾をたたむとしても不思議ではない」

→仲代が生きている限りそれはないとのこと。


無名塾に詳しい関係者の話によると、週刊現代の記事は丸っきりデタラメでタレコミ人には悪意を感じるという。
無名塾の入塾には毎年1000人近くの応募があり、その中から選ばれるのは5人程度。
俳優業で飯を食っていくのは大変だと知る仲代は、適性の低い塾生には親切のため早い段階で辞めてもらっているのだというが、納得のできないまま塾を後にした人間には恨まれることだってあろう。
今回のタレコミはそうした人間によるものではないかと目されているが、問題はまったく信用の置けないこれらの情報を垂れ流しにしてAさんを悪者にしたまま終わっている週刊現代。
呆れ果てた関係者は「今後週刊現代の取材は頼まれても受けるつもりはない」と怒り心頭だ。

長崎小6少女殺人事件のときは、ネット社会の暴走に警鐘を鳴らすとても奥深い記事を書いていたのに、いったいどうしてこんな記事が出てしまうのか。
週刊現代を毎週毎週、発売前夜は酒を控えるほど楽しみにしている人は数知れないというのに、こういう一部の記事のせいで購買意欲を殺がれてしまえば、読者のお気に入り週刊誌リストから外される危険だって高い。

週刊現代掲載から一ヶ月余りの間、少数であるが複数の週刊誌が本件で動いていたが記事にならなかった。
おそらくつまらないネタなので記事を「お盆くらいでいいか」と先送りにしていたのだろう。
そんななか明日発売の週刊女性は、仲代達矢への直撃インタビューを掲載する(はずだ)。
180分間軟禁状態(?)の週刊女性記者が見たものとは!?

そして実は、我々も2週間ほど前に渦中のAさんに接触していたのである。
恋人が舞台に出演するということで都内某所に現れたAさんは、「週刊現代の書いていることは事実と異なります」と完全否定。
はっきりした顔立ちの彼女の目からは女優独特の強い意思を感じ取れたが、まだ無名の自分が有力週刊誌に叩かれていることには動揺を隠し切れないでいた。
将来大女優になって、「こんなこともあったんです」と笑い話にでもなればいいのだろうが……。



探偵ファイル・カグウェル



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