交通事故、その裏側の悲しい物語
〜 留学なら許されるのですか? 〜


日本での交通事故は、年間80万件にも上る。これを処理する検察の検事の数を、皆さんはご存知だろうか?
全国で、僅か900人しかいないのである。
しかも、検事は交通事故のみを扱っているわけではない。一般犯罪案件も含めれば、昨今の犯罪増加傾向と比例し、莫大な数に上る。
今回お届けするのは、もはや日常とさえ言える程に発生している交通事故の中の1つのお話である。


事故は、2002年10月に起こった。被害者・加害者ともに、若い大学生であった。この事件が、いま、なぜクローズアップされているのか?
事の発端は、2004年2月18日付毎日新聞全国版夕刊の記事である。
なんと、ありふれた交通事故のなかでは異例的に、検事が交代しているのである。
しかも、その原因が凄い。加害者は、検察に書類が送付されているのにも関わらず、検察に事前通告もなく、海外に「留学」に行っているのである。

この案件について独自取材を行った所、様々な事柄が浮かび上がって来た。

交通事故が起きたのは、国道2号線沿いの複雑な交差点。事故が多発するポイントである。
被害車両はバイクで直進。被疑車両は車で右折。いわゆる「右直事故」である。残念ながら、被害者は事故の1ヵ月後にはお亡くなりになっている。
不謹慎な言い方かもしれないが、ここまでなら、ありふれた交通事故とも言えるのであろう。
しかし、ここから事故は事件となり、状況も劇的に急変したのである。

事故現場は人通りが多く、目撃証言は事故発生当時から数多く寄せられている。目撃者の証言をまとめると、このようになる。

・被害者の車線の信号は青であった
・加害者は方向指示器も出さずに交差点に進入した
・被害者の他に車両は走っていなかった
・衝突は、ほぼ正面衝突に近かった
・被害者は最も左側の車線を走行していた(現場は片側3車線。内1車線は右折専用)


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        ▲問題となった事故現場

これに対して、被疑者側の主張はこのようなものである。

・被害者側の信号は赤で、車が3台停止していた
・バイクは突然クラクションを鳴らしながら突進して来た
・慌ててブレーキを踏んだが間に合わなかった
・バイクがどこから(3台停止していた車の隙間)現れたかは定かではない


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         ▲事故現場 その2

すでに、第三者の目撃証言とも食い違っているのである。更に追求すると、なんとこの加害者は謝罪もしていない。そして、検察に事情聴取で呼ばれてから2週間以内に、無断で海外に行っているのである。

過失割合がどうなのかは現在、公判すら行われていないので、定かにはわかりようが無い。しかし、自分の運転で人が1人、命を落しているのにも関わらず、過失も認めず、謝罪もせず、現実から逃げているというのである。
以上が調査の上で浮上した疑問である。

この疑問を確かめるべく、加害者の弁護士に話を伺った。内容を以下に記す。



―――事故当初の、第三者の目撃証言と被疑者の主張には大きな食い違いがあるが、これはどうしてか?また、被疑者の主張を裏付ける証拠・証明などはあるか?
証拠や証言は残念ながらない。しかも、目撃証言が全て正しいとも思えない。

―――2003年1月より5月(検察呼び出し)まで、「加害者から被害者遺族に何も連絡・謝罪の念が伝えられた形跡はない」と伺っているが?
被害者遺族の無念は大きく、何を言っても溜飲を下げて頂けるとは思えなかったので、連絡を取らないでいた。検察呼び出しのあった日の連絡についてだが、被疑者が検察で、「被害者と連絡は取っているか?どうされていたか?話はしているか?」と尋ねられた際、まさか「全く連絡してないので解らない」と答える訳にもいかないので連絡をした。

―――検察呼び出しの直後、すぐに海外に行っているが、これは必然性があったのか?検察の処分を待つことは出来なかったのか?検察に連絡をしなかった理由は何か?
海外留学は事故が起きる前に既に決定しており、学校にも休学届を提出した状態であった。いつ来るか分からない呼び出しの為に復学も出来ない状況で、ただ時間を過ごすのは無意味だと被疑者は判断した。検察から呼び出しがあれば、すぐに帰国する手筈は整えてあった。(※その後12月に検察から呼び出しがあったが、被疑者は帰国せず、今年2月に帰国している)



調査した者としての率直な感想は、「子供の言い訳」である。
あくまでも、人が亡くなった事実から目を背けて、「自分の都合」のみを優先する加害者。
これに対して、被害者遺族は不思議な事に、耐えている。
被害者遺族に取材をした結果、被害者は加害者を”許したい”と願っていたそうだ。「まだ若い人が・・・・・・」と。ただ、こう漏らしている。

「事故当時の事を正直に、言って欲しい。真実を知りたい」と。

そして、「亡くなった息子に『ごめんなさい』と、一言添えて欲しい・・・・・・」と。


非常に悲しい事件である。
いつかは私たちも加害者、被害者、または遺族になりうるであろう。その時、果たして私たちは真実から目を背けずに立ち向かえるのであろうか?
公判で真実が明らかになることを願って・・・・・・。

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◆関連サイト

◆2/18 毎日新聞夕刊記事



( 近畿支部特派員・DJ SHO 編集・キム )


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