働く人の憂鬱シリーズ
〜 葬儀屋さんの憂鬱 〜


数多とある業界の中で、その業界に身を置く人にしかわからない裏話や苦労話などがあります。
実際に働いてみたいけど・・・などと思っている方にも、そうでない方にも楽しんで頂こうという憂鬱シリーズ。
今回は人生最期の時「死」に関わるお仕事で、多くの人が利用する葬儀屋さん。「葬儀屋」の仕事をしていたTさんと、「湯灌(ゆかん)」(御遺体を棺に収める前に湯で拭き清めること)の仕事をしているSさんにお話を伺って参りました。お二人とも20代前半の女性です。先に述べておきますが、二人とも死体好きが高じてこのお仕事をなさっていますので、ちょっと変わった視点で見て頂ければ幸いです。



―――このお仕事をしようと思ったきっかけは?

Tさん:簡単に言ってしまえば単に死体を見たかっただけです。それに付け加えるなら、人と接するのが苦手・・・というか、生きてる人間が苦手だったのであまり人と接しない仕事をしたかったんです。

Sさん:親の知人が湯灌の仕事をやっていたことからこの仕事のことを知ったのがきっかけですね。
大切な人の最期の瞬間に立ち会えなかったので、せめて他の人の最期を代わりに見送ろうと思いました。
あと私もやっぱり、死体を見たかったからですね。


―――このお仕事の魅力は?

Tさん:結婚式と同じで、毎日がイベントみたいです。どれ1つとして同じ葬儀がないので、毎日新鮮な気持ちで仕事に取り組むことができました。

Sさん:しっかり仕事をした分、御遺族の方などにすごく喜んでもらえるので、その時は本当にうれしいですね。あとやっぱりこれも、毎日いろんな死体が見られるという点でしょうか。





―――実際に働いてみて給料や賃金等、実情はどのようなものでしたか?

Tさん:私はアルバイトだったので、時給850円でした。その日にある行事によって時間帯などが変わるので、平均してだいたい1日7000円ぐらいの収入でしたね。しょっちゅう急に呼び出されたりするので、遊びたい時に遊べませんでした。

Sさん:みんなこの業界は儲かるって思ってますけど、真逆ですね。私の場合は営業して1件とれても2000円しかもらえません。もう働いて3年も経つのに、新人の子と給料は変わりません。具体的に言うと月に10万いかないぐらいですね・・・。
でも本当はもっと儲けてると思いますよ。私達がお金をあまりもらえないだけで、上の人達はかなり儲かってるんだと思います。


―――このお仕事に就きたい人に知っておいてもらいたい事は?

Tさん:人が嫌がる仕事かもしれないけど、本当に大切な仕事なのでとにかく真剣にやって欲しいです。
安いお給料のわりには時間の融通が利きません。いつ誰が亡くなるかわからないので、急に仕事が入って呼び出されることもよくあります。なので、時間に余裕のある人の方が向いていますね。

Sさん:御遺体から疥癬(かいせん)などの病気をうつってしまう可能性があるので、注意が必要です。
もちろん死後数ヶ月などの遺体もありますから、腐乱死体を見ることだってよくあります。この仕事を始めて、初めてうじ虫を生で見ましたから。ですから、それなりの覚悟は必要ですよ。
それから、基本的に清楚な格好でなければこの仕事はできません。私も普段はピアスをつけて髪も明るいですが、仕事中はピアスは外しますし、葬儀のある時はカツラをかぶってます。


―――結構行なわれているけど、一般の人には秘密の事ってありますか?

Tさん:1番安い棺は、私達が倉庫で作ってます。裏でかんかん釘を打ち付けて・・・。まさか葬儀屋で日用大工をするなんて思ってませんでした。
あと、葬儀屋にも営業があります。失礼な話ですけど、次亡くなりそうな人はいないか探すんですね。お年寄りの方との会話がうまい人が多いです。病院側と繋がりのある営業もいます。遺族の方が何らかの理由で御遺体を受け取る事ができない場合はすぐさま葬儀屋に連絡を取ったり、葬儀屋のあてがない方だったら病院側から紹介したりといった流れでしょうか。
笑えない話に病院で亡くなった方がいたのですが、その方の遺族が来るよりも、保険屋さんが来るよりも葬儀屋の営業が早く来たという話があります。つまりはアレです、死ぬ寸前になると付き合いのある病院から連絡が来るんですよ。その辺は持ちつ持たれつつ・・・。遺族の方には怒鳴られ兼ねないことですが、営業は仕事を取ってなんぼですから・・・。
それから葬儀の際、出席された方に失礼のないよう、亡くなった方の人間関係などを詳しく知っておく必要があります。奥さんだと思ったら愛人だったり、普通のお子さんと思ったら隠し子だったり、というのがありますので。
それからこれは、業界の裏話っていうんじゃないですけど、踏み倒しをしようとする遺族の方ってやっぱりいます。葬儀って結構なお金がかかりますからね。そういう時は、全額きっちり払ってくれるまでべったりくっ付いています。


Sさん:色んな道具を使うのに結構お金がかかっていると思われがちですが、実は使い回しが多かったりします。
それから、御遺体を棺に収める時、硬直しててなかなか入らない事ってよくあるんですよ。それでこう・・・無理矢理棺に収めようとして骨をぼきぼき折ってしまったり。「ぼきっ!」っていう音がすると、「ごめんなさい!」って御遺体に謝ってます。
オムツが取れていないぐらいの幼い子供の御遺体の場合、汚物が出てくる場合があるので手袋をして指で脱脂綿をお尻の穴にも詰めてあげます。
まだまだありますよ。会社の人達と飲み会をして、次の日そのままみんな二日酔いで仕事をしたり。遺族の方の前ではしゃきっ!っとして、いない時はへろへろ〜っとしてました。
あと、この業界って意外と刺青を入れてる方が多いんですよね。あっち系の人かはわからないのですが、肌を露出することなんてないので、見えないオシャレとかだったらできるんじゃないかと思います。





―――笑い話や苦労話などあったら教えてください。

Tさん:“御遺体”と言わなければいけないのに、「今日の死体どこですかー?」なんて聞いちゃったことがあります。最初のうちは言葉遣いが難しくて慣れないため、よく怒られてました。
葬儀の時とか、すごい重い雰囲気なのにとんだアクシデントで噴き出しそうになっても、必死で笑いを堪えなければいけないのが辛かったです。葬儀の次の日にお供え物がなくなっていたこととかもありました。きっと誰かが食べちゃったんでしょうね。

Sさん:遺族の方が御遺体の顔を拭く際、遺族の方が全員太ってたんですよ。それで、女性の方が顔を吹きに来た時に畳が抜けてしまって、笑いを堪えるのに必死でした。ふすまで遺族の方の顔を挟んでしまったり・・・。
あとは苦労話なんですけど、先程も言った病気をうつってしまう可能性があるという話、実は私うつされたんですよ。疥癬。もう痒くて痒くて大変でした。御遺体にうじ虫が湧いた時も本当に大変でした。
それからやっぱり、自分と同い年の方やもしくは年下の方の湯灌をする時は、本当に胸が痛いです。


―――その他言いたい事などがあれば是非どうぞ。

Tさん:葬儀ってもっと個性があってもいいと思うんですよね。亡くなった方が生前好きだった音楽を葬儀中に流したり、お洒落な棺や骨壷があったらなーなんていつも思ってます。
大変な仕事だけどそれ以上に物凄くやりがいがあって、心から「この仕事やっててよかった」と思えました。またやりたいです。

Sさん:とにかく人に喜んでもらえるのが嬉しいです。他の仕事はあまり続かなかったけど、この仕事は本当にやりがいがあるので今でも続いています。大変な仕事だけど、そういったやりがいや悦びが得られるので、いつの間にか安い給料も気にならなくなりました。

Tさん&Sさん:本当にいい仕事ですよ!




以上です。ご協力ありがとうございました。
いかがだったでしょうか?お二人ともこの話をしている時、とても活き活きとしていました。取材中はみんなして終始笑いが絶えなかったのですが、あまり文中に(笑)をつけすぎると個人的にうざったいので割愛しました。
自分が主役になるかならないかはともかくとして、人生で少なくとも1度は葬儀に出席された方がほとんどだと思います。とはいっても、実情なんてほとんど知らないのではないでしょうか。

今回は「葬儀屋」ということで、葬儀屋関連の書籍を一冊、紹介させて頂きます。

 
死体ばかり見ていた。めぐみの葬儀屋日記」(広済堂出版)

こちらも今回取材に協力して頂いたお二人と同じく、死体好きが高じて高校生の頃から葬儀屋でアルバイトをしていた方のお話です。
内容や目次は上記サイトにも載っていますので、興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか?

如何でしたでしょうか? 普段、まったく接点の無い業態のちょっとした事情を知って頂けたらと思います。
しかし、ここに書かれている事だけが全てではありません。葬儀屋といっても、今回は、現場での方達に焦点を絞っており、営業サイドのお話ではありません。
しかし、営業サイドのお話も興味深いものですから、その話はまた今度・・・。




探偵ファイルのトップへ戻る

インデックス