消費者のためになった広告コンクール
〜 広告、それは時代を映す鏡 〜


去る11月20日、東京青山のスパイラルホールにて第43回「消費者のためになった広告コンクール」日本広告主協会主催)の表彰会が行われた。数ある広告賞の中でも伝統あるこの賞であるが、その趣旨はその名の通り、「消費者側から見た優秀な広告」を賞揚するためのものである。本年度の応募総数は3,712点。新聞、雑誌、テレビ、WEBの4部門に分けられ、計96点の広告が入賞するに至った。

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表彰会・会場の風景

では受賞作品のいくつかを紹介しよう。
(全ての受賞作品はこちら。)

――テレビ広告15秒以内ブロック【金賞】ツーカー(ツーカー企業ブランド「hisshi」編)
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お馴染み、ダウンタウンの松ちゃんが持論を展開するという作りのCM。同業他社が激しい新機種競争を繰り広げている中、自分たちの独自路線を消費者に訴えるという点で成功していると言える。
「次世代派」の方にはツーカーの「事実上の敗北」に映るかもしれないが、「話せりゃええやん派」の方の心はしっかりと掴んでいるはずだ。いずれにせよ、この開き直りはなかなか真似できない。

ちなみに認知度の高いタレントを起用した受賞作品の割合は低く、松ちゃんの金賞受賞が最高であった。他は「日本航空株式会社」の矢田亜希子(銅賞)、「大日本除虫菊株式会社」の観月ありさ(銀賞)。
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▲矢田亜希子の人気が止まらない → infoseek

――新聞広告【銀賞】NEC
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▲理科の実験で浮かばなかったCO2の風船だが・・・

「私たちはCO2で考えます。」「IT、で、エコ」というコピーは、読む側に「いったい何を言いたいのか」と疑問を抱かせ、読み飛ばしたくなる小さな活字にもつい目が行ってしまうよう計算されている。
その内容は、「ITには『人やモノの移動』『紙の使用』を減らす効果があり、環境にもプラスに作用する。NECは企業の取り組みとしてCO2の排出量を減らすことを考え、地球環境のため努力していく」というものだ。企業は環境問題も念頭に入れないと消費者の支持を得られない時代ゆえ、大企業としては当然の姿勢か。
詳しく知りたい方はこちら

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▲「これまでの研修をCO2にしてみました。」というコピーの広告。これまでは社員研修の度に全国から社員を集めていたようだが、「CO2を減らすため」にインターネットを利用した研修に変えたという。「交通費を節約するため」という方が動機としては自然だが、ITエコの世界では決してそういうことは言わない。

――テレビ広告【JAA会長賞】社団法人公共広告機構(公共広告「思いやり」編)
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▲岐阜県川島町の小網橋。木曽川を跨ぐ全長280メートルの橋であるが、幅はたったの3メートル。橋の真ん中に「待避所」があるものの、車の行き違いが出来ずに言い合いになることもあり『けんか橋』と呼ばれていた。しかし、譲り合う気持ちを持とうという運動から、地元の人たちはいつしかその橋を『思いやり橋』と呼ぶようになったという。
昭和38年に建設されたこの橋も、交通量の増えた現在では危険が多いため、今秋から新小網橋(仮称)の建設が始まった。完成予定の3年後には現在の橋も撤去される。工事中は一時的な規制はあるものの、これまで通り通行できるようだ。


日本の風景がまた一つ消える。狭くて不便な橋であったかも知れないが、不便なところから心が通い始める。何もかも便利になったこの時代では、こういった機会が少しずつ失われているのかもしれない。
このCMを見て「橋の設計者がアホなだけでは?」と思う人もいれば、日常で忘れてかけていた「思いやる気持ち」を取り戻そうとした素直な人もいたのではないだろうか。

――雑誌広告【銀賞】大日本除虫菊株式会社
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賞をとるためにわざわざ「ひねったアイデア」を出す必要はないという一例。
『ウルトラがいちゅう大百科』が気になった方はこちら
身近にいる害虫の説明が、イラスト入りで分かり易い。

――テレビ広告16秒以上ブロック【銅賞】
株式会社大塚製薬工場(オロナインH軟膏「傷だらけの青春編」)

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今年は生茶のCMでも活躍した竹内恭平くん。以前探偵ファイルでも、芸能情報館で取り上げたことがある。→こちら
生茶とのダブル当選はなかったものの、今後の出演作品に期待したい。
竹内君の印象ばかりが残ってしまいがちだが、純粋に薬のCMとして見ても秀逸な広告と言える。

――雑誌広告【銀賞】三井物産株式会社
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暗闇の地下鉄のホームに、傘を持った少女。「怨霊の館」ではない。一瞬何の広告か分からないが、これはマグライトの広告である。マグライトは1986年日本に上陸し、アウトドアや災害時などの電灯として重宝されている。
下部中央には黒字の見え辛いコピーで「A MAN, A LITE」とある。「大震災」もしくは「小学生が終電後の地下鉄駅構内に迷い込むかもしれない」という設定にまで役立つのだから、防災グッズの一つとしてあなたの手元にも一つ用意してみてはいかがだろうか。

――テレビ広告公共広告ブロック【金賞】
九州生乳販売農業協同組合連合会(牛乳価格回復キャンペーン「牛乳が泣いています。」編)

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酪農家の採算が取れなくなるほど牛乳の価格が下がっている。その現状を切実に訴えている広告だ。
我々消費者にとっては1円でも安く売られることの方が嬉しいことかもしれない。しかしその一方で、高品質の牛乳を提供してきた日本の酪農家が次々に廃業しているという現実。いつか学校給食からも牛乳が消えてしまう日が来るかもしれない。
つい安さばかりを喜んでしまう消費者意識の改革になるだろうか。


以上、すべての受賞作品は紹介できなかったが、今年、あなたのためになった広告はあっただろうか。
広告は時代を映すもの。広告が時代を動かし、日本の次世代を作る。来年も消費者のための素晴らしい広告が多く生まれることを期待したい。





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