自殺防止センター

〜 立ち上がれ、明日が見えるよ 〜



写真1 昨年の自殺者総数は 31,042人を数え、不景気な世相を反映してか、中高年の自殺も目立つという。
「死にたきゃ、勝手に死ね」など、シニカルな意見も多く聞かれるが、やはり「あなたひとりの命ではない」「命は大事にすべき」という意見は尊重されるべきだろう。
その、尊重されるべき「命」のため、大阪・東心斎橋にある「島之内教会」の片隅にこのような事務所が設けられている。

「NPO国際ビフレンダーズ・大阪 自殺防止センター」
06−6251−4343

このセンターは、自殺を考える人や、ひとりで思い悩む人からの相談電話を、24時間受け付けている。
寄せられる相談電話は1日50件以上に上り、中には「今、手首を切ったんです。」「薬(睡眠薬・毒)を飲んだんです。」といった、
まさにギリギリの状況での相談もあるという。

このセンターは、有志の方の寄付や、ボランティアの会費でなりたっている、非営利団体。
組織としては、全体で100人位で、大阪だけでなく東京にもあり、今年から四国の松山でも始まった。

「東京・自殺防止センター」 http://www1.odn.ne.jp/~ceq16010/
   03−5286−9090

写真2 「実際の活動としては、現実問題としての具体的な方策や方法対策をお話しするというわけではなくて、むしろ、相手の話を傾聴する、相手の苦しい気持ちを一生懸命、聞いてあげるということになるんです。名前にある“ビフレンダーズ”というのは、電話を頂いた間だけでも“友達”として、辛いところの話を伺わせてもらう、といった意味の造語なんです。」

このセンターでボランティアを努め、もう6年目になるというAさん(右:写真)はそう説明してくれた。


――自殺を考えるほど、悩みに追い詰められてしまった人達からの相談電話ということで、かなり、ナーバスになってらっしゃる方が多いと思うんですが、具体的にどのような相談を行っておられるんですか? 「死にたい」と、本気で考えている人を止めるというのは非常に難しいと思うんですが?

この質問に対するAさんの回答は、少々意外なものだった。

「止めないんです。」

――止めないんですか?
もちろん『じゃあ、どうぞお死にになってください』というわけじゃありませんけれど。自殺を考える方が家族や友達に相談すると、先ず“やめなさい”から入っていくと思うんです。そうやって、止められるのが疎ましくて、相談できないといった方も多いんです。『死にたい』→『駄目』では話になりませんので、死にたくなった、その理由や苦しさを聞かせてもらう、いうことなんです。

――教会の傍だということで、キリスト教関連のお話をされることもあるのかな、と想像して
  たんですが。

いえ、この教会は場所を借りているだけですので、相談上、そういった宗教色を出すということはあり得ません。相談を受けるボランティアは、こちらからのからの積極的な意見の投げかけはしないんです。

――具体的な解決策を提示するというわけではない、というわけですね。
内容によりますが、明らかに病的になってらっしゃる方には、病院へ行くことを“提案”させてもらったりはします。でも、そういった以外は、こちらから何かの意見を提示することはないですね。


「自殺防止」といった言葉の印象から、電話相談も“自殺なんか止めなさい”といった内容になると想像されがちだが、実際には違うようだ。 ここでの相談は「国際ビフレンダーズ」が設けた『7つの原則』にそって行われ、相談に当るボランティアの方々は、これを厳守しなくてはならないという。

先ほどAさんが話されたものは『7つの原則』の3番目。
「コーラー(相談者)は、自殺をするという決心を含めて、自分で決定する自由を失わない。また、いつでも相談をやめる自由がある。」

同じく『7つの原則』の7番目。
「ボランティアは、政治、哲学、宗教に関して自分の確信をコーラーに押しつけることを禁じる。」
に沿ったものである。


そりゃ、相談を受けている間に『こうしたほうがもっと...。』といった意見を思いつくこともありますが、それを口にすることは無く、あくまでも、相談をされる方の意思を尊重して、御本人が気持ちを改革されるのを待つ形になります。

――あえて、止めはしないけれど...といったスタンスなんでしょうか?
でも、やはり、根底では、何とかやめてほしいという気持ちで、御相談をうけているんですよ。しかし、あまり“やめなさい”という気持ちを出しすぎても、押し付けがましくなってしまいますし。

――逆効果になってしまいかねないわけですね。
しかし、逆に、そういう言葉が欲しい方もいらっしゃいますし。

――所謂、“誰かに止めてほしい”という気持ちですね。
でも「だから、やめよう」といっても、問題はそんなに簡単じゃない場合ばかりですし...。

――難しいですね。
電話をこちらから切ることはありませんから、2時間でも3時間でもお話を伺うことはできるんですが、やはり、電話で少し相談したくらいでは、とても、根本的な解決にはいたらない場合が多いんです。せめて、相談者のかたが電話をかけている間だけでも、その苦しさを和らげようということを考えています。

――いずれにしても、一生懸命話を聞くということが基本姿勢になるわけですね。
しかし、だから、物足りない方というのはいらっしゃいますし、苦情もあります。「ここに相談したけれど、全然なんにもしてくれない!」とか、実際に自殺してしまった方の御遺族から「子供がここに電話したけれど、どうにもならなかったじゃないか!」といったふうに。


このように、話を聞いていくと「自殺防止と言っているけれど、具体的に助けてくれるわけじゃないし、ただ、話を聞くだけじゃないか」との感想を持たれた方もいるかもしれない。
しかし、現在、一見簡単そうに見える、そのことこそが軽んじられている世相である。
少なくとも、電話相談の現場に立つAさんはそう感じているようだ。


私が感じるところなんですが、“死にたい”という気持ちを持つ人は「自分のことは誰もかまってくれない」「心配してくれない」と思ってらっしゃる方が多いみたいなんです。 もちろん、家族を持ってらっしゃる方もいらっしゃいますから。 家族の方は愛情を持っているのかもしれません。でも、それを御本人が感じることができない...。 「自分のことなんか誰もなんともおもっていない」「自分が死んでも、だれも悲しまない。」 そういう心理になってしまうようなんです。

――家族関係の亀裂や、崩壊と言ったものは言われて久しいんですが、こういった現場において
  も、やはり、そういったことはお感じになられますか。

死にたい原因というのは、本当に様々あって、特定できる問題でもないです。 けれど、親子関係・家族関係がそういった悩みを抱える人の心に、だいぶ影響するのかなあ、というのは経験上感じますね。 例えば、やはり、子供を大事に思わない親御さんはいないと思うんです。 それが、子供さんにうまく伝わっていなくて...。 だから親御さんの方も、子供に対して溝を感じてしまってという、悪循環はあるかも知れませんね。 多分、言葉の行き違いとかで、うまく意思の疎通ができないといったことも、原因のひとつとしてあるんじゃないかと思うんです。 相談をされる方の実際がどうなのかは分かりません。 本当に心配されていないのかも知れませんし、愛されてないのかもしれません。 けれど「だれも心配してくれない」と言う言葉の裏側はやはり「心配して欲しい」ということだと思います。 最近だけではないと思いますが、悩みをかかえた人が、ちょっと鬱気味となると、まず、家族のかたが疎ましがるんです。 一番近しい人が、一番最初にうっとうしがってしまう。だから、余計に孤独感が増して……という悪循環もあると思うんです。 話し方を学ぶ必要もなく、コミュニケーションの勉強をするわけでもなく「ああそうなのか。たいへんだね」と話を聞くだけで、相手の気持ちが楽になる。 救われることも多いんじゃないかと思います。 全然、専門家でも何でもないんですけど、そういったことは、ちらちらと感じますね。


Aさんはこのボランティアを始めて、6年目になる。 しかし、24時間、1日50本にも上る電話相談を受け付ける、同センターのボランティアの数はまだまだ少ないという。


――有志の方がこのセンターのボランティアをやりたいと思った場合、募集などはしているん
  でしょうか?

毎年4月と10月に有志のボランティアを募っています。 応募された方は、ほぼ1年間をかけて、ここのボランティアになっていただくための養成講座を受けて、相談者としての勉強をしてから、実際に電話を取ってもらうことになります。

写真3
第57期ボランティア募集要綱
募集期間:2002年10月1日〜10月15日
「島之内教会内 自殺防止センター事務局」Tel(06)6251−4339

――どんなことを学ぶんでしょう?
カウンセリングなどの、難しい心理医学のような知識を学ぶということはないんです。 やはり、基本である「7つの原則」を深く学んで、十分に理解して、あとは、ロールプレイを繰り返して、訓練していくということになります。

――大変な仕事でしょうが、何か資格はありますか。
話の内容が本当に重い話を聞かせてもらうことになりますので、それなりの気持ちを持った人でないと“暇だからなにかやってみよう”というような、軽い気持ちではなかなか勤まらないですね。

――Aさんは、相談者としての自信はおありですか?
自信ですか? 無いといえば、失礼な話ですし、あるといえば、傲慢な話ですし(笑) ただ、相談に電話をかけてこられるかたの、言葉の一つ一つ、端々まで、大切に聞いていくという気持ちでやっています。

――最後に、悩んで自殺を考えているという人へコメントがありましたら。
誰でも、いつでも、電話をかけてください』ということですね。 悩んで、気持ちがいっぱいになってしまって「今、話したい」「今、どうしようもない気持ちなんだ」と言う方もいらっしゃると思います。 そのために、私たちは24時間やっているんだから、なんの遠慮もなくかけて欲しいです。 そんなふうに、追い詰められてしまったらお電話ください。お話をするだけでも、気持ちが楽になるかもしれませんので。


「自殺防止」と銘打ってはいるけれど、自殺を止めるよう強いるわけではない。
自殺を決めるのはあくまでも、本人の意思である。
このセンターはそれを理解し、ただただ「話を聞いてくれる」。
誰にも話せず、一人で悩み苦しんで、追い詰められてしまった人のために用意された「告解室」といえるかもしれない。



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探偵タイムス



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