
●更新日 03/03●
苦学生に総額1000万円!!
“善玉ストーカー”の正体は?
“ストーカー”という言葉が定着して何年経つだろうか。
我々にも、被害者の女性たちから絶え間なく相談が持ち込まれてくる。
ひと口にストーカーちいっても、恋人をつくれないマザコン・タイプから、
女性の下着を盗む変質者まで千差万別である。

私はつい最近、滅多に見ることのできない
“善玉ストーカー”に遭遇した。
何とそのストーカーは、苦学中の女の子に送金し続けていたのである。
苦学生へのプレゼント
秋の気配が色濃くなった頃、私は、専門学校に通う19歳の娘と都内の喫茶店で待ち合わせた。
「半年前から、差出人のない手紙が送られてくるんです。 必ず普通郵便で、中に5万円が同封されているんですよ。 手紙の内容からすると、いつも私のことを監視しているみたいで……。 気味が悪いから、一刻も早く差出人を探し出してほしいんです。」
依頼者は、細い指を膝の上で組み合わせ、神経質そうに訴えた。
花模様がプリントされた安っぽいワンピースに、ディスカウント・ショップの紙袋を携えている。
「お金が同封されているんですか。何か心当たりは?」
「私の家は母子家庭で、生活が苦しいんです。
母がアルコール依存症で、すぐに仕事をやめてしまうから、私がウェイトレスのバイトをして家計を助けているんです。
弟も、新聞配達をやっています。手紙の差出人は、そういう事情をすべて知っているみたいなんです。
『お父さんがいなくて大変だけど、弟がいつも君のことを見守っているから』なんて書いてあるんですよ。 変なストーカーですよね。」
探偵は思わず首を傾けた。
狙った女性の下着を盗んだり、しつこく交際を迫ったりするストーカーとは、あまりにも行動パターンが違いすぎるからだ。
依頼者が受け取った手紙は、すでに200通を超え、同封された金は1000万円にものぼっている。依頼者は、いつでも返せるように、金にはまったく手をつけていない。

手掛かりは手紙である。
筆跡の特徴から、差出人は若い男性と推測できた。
「君は正門の前で友達と話していたね。」などと依頼者について調べた事実をしに託して綴っていたのだ。
予備校生の財産
私は早速、高田馬場にある専門学校の前で張り込みを開始。
夕方5時過ぎ、近くの予備校から出てきた男子生徒が、私の側に立って缶ジュースを飲みはじめた。
依頼者が正門に姿を現すと、彼の眼は鋭く光ったが、すぐに人込みに紛れて逆方向に去ってしまった。
翌日も同じ人物が出没したので、今度は、すかさず彼のあとを追うことにした。
大井町線の駅で降り、閑静な住宅地に聳え立つ大邸宅の中に姿を消したのだ。
私は、彼の家の郵便受けに記された名前を確認した。
翌日、依頼者から電話が入った。
「今日、また例の手紙がきたんですよ。
『君は恋人がいないようだね、やっぱりお父さんが愛人をつくったりしたから、男に不信感があるのかな。』なんて書いてあるんです。 興信所でも使って私のことを調べているのかしら。」
「ご両親は、お父さんの浮気が原因で離婚したんですか?」
探偵は遠慮がちに訊ねてみた。
「そうなんです。父は、私が10歳のときに愛人と再婚しましたが、その直後に交通事故で死んでしまったんです。 詳しいことはわからないけど、衝突事故だったらしいんですね。 事故の相手は助かったそうです。」
父親は、もともとギャンブル狂で借金を抱えていたが、愛人と再婚してからは、新しく起こした事業に成功した。
そのため、遺産は2億円を下らなかったが、後妻が相続することになり、依頼者の母親は一銭ももらえなかった。
「大体、ターゲットの目星はつきましたから、安心して下さい。」
探偵は依頼者に請け合うと、再び予備校生が住む街に出掛けていった。
付近の老人に予備校生の名字を告げ、世間話を始めたのである。
「彼は最近、金回りがいいようですね。高校時代の担任として心配しているんです。」
「父親が癌で亡くなったから、膨大な遺産が入ったんですよ。」
私は、やはりこの予備校生こそ手紙の差出人にちがいないと判断した。
若い男が半年間に1000万円もの大金を自由に使えるとしたら、犯罪に手を染めるか親の遺産が入ったとしか考えられないからである。
さらに探りを入れてみると、ターゲットの父親は、かつて交通事故を起こし、病院に運び込まれたことがあるという。
「近くの交差点で事故を起こして、相手の人は死にました。 自分の息子と同じくらいの女の子が泣いていて哀れだと言ってましたね。」
これで謎が解けた。
ターゲットは、自分の父親が起こした交通事故のせいで、ひとりの少女が不幸のどん底に落ちてしまったことを知っていたのだ。
探偵は初めて遭遇する“善玉ストーカー”に、心が洗われる思いがした。
しかしこのようなケースは稀であり、自分の身を守るのは自分でしかない。
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