知人によれば、音楽が流れるまで、その背広の人は文庫本を読んでいたという。これから自殺をするのに、わざわざ本など読むのか?
その人は音楽が流れる直前まで何もおかしなことはなかったという。音楽が流れてきたとたんに立ち上がり、そのままふらふらと何かに引かれるように線路にスッと落ちていったということだ。
その翌日には、自殺した人の記事が新聞などに出たが、妻や親しい人の話でも、自殺する理由に心当たりはないということだった。

私は知人と、その自殺があったというホームに行ってみた。
なんの変哲もない、普通の駅のように思える。私は霊感が普通の人よりも強いらしいのだが、あまり嫌な感じはしなかった。そして、自殺した人が直前まで腰掛けていたというベンチにも座ってみた。