寒さで凍える夜・・・午前零時過ぎ・・・新宿歌舞伎町のスタンドバー。
 私は仲の良いH刑事に、「何かいいネタはないか」と取材中だった。
当時、監修を任されていたTBS連続ドラマ『私、味方です(館ひろし主演)』の
監修に役立てるためだ。
 話がはずんでいたころ、彼のポケットベルが鳴った。新宿署と連絡をとった彼が、
「今、コロシがあった。ゲンバは目と鼻の先だ。行くか?」と。
 私はこれまでにも幾度となく彼が遭遇する事件に首を突っ込んできた。断るはずがない。

 新宿区百人町二丁目、Pデンス。
 表玄関からエレベーターホールにかけて血がしたたり、引きずった跡がある。
『犯人は死体を運んでいる!いったいどういうことだ』
 ガイシャ(被害者)の部屋のドアの前で、ひどく取り乱したパジャマ姿の中年女性が、
若い巡査に向かってギャーギャー叫んでいた。
 殺人現場独特の光景だ。
  H刑事を見た巡査は、軽く会釈をして「殺害されたのは、独り住まいの若い女性です」
と告げた。
 六畳のワンルーム、ドアを開けてすぐに血溜まりがあり、彼が踏み込んだ途端、
ピチャッといやな音がした。続けて私もはいる。