自殺の原因は不明で他の住人の話を総括してみても彼女に自殺を決意させるような悩みがあるようには思えず、 また、奇妙な振る舞いを目撃した者もいない。
 午後七時頃、問題の七〇五号室の部屋に灯が燈った。 意を決して玄関のブザーを鳴らすと二十歳ぐらいのおとなしそうな青年がでてきた。 引っ越してきたばかりで事件を知らない住人だとまずいので、直接的な質問は避ける。

「このあたりに女子学生が自殺したマンションがあると聞いたのですが、何かごぞんじありませんか」

「知ってますよ。僕の先輩の彼女でしたから」
           
 返答は意外なほどあっさりしている。その青年がいうには、 自殺当日、彼女は部屋に戻るまで彼といっしょにいたらしく、普段となんら変わりなかった。 知り合って三ヶ月、一番楽しい盛りのはずだと。 一人暮らしであったが家庭環境もよく、友だちからも人気があったという。
 この部屋の持ち主は、じつは彼女の物でなく、彼氏の親が権利をもっていたので、 部屋を引き払うならとその青年が申し出て安く借りたということである。 見かけによらずなんとも図太い神経の持ち主だ。
「この部屋にいて何事も起こりませんか」と無粋な質問をぶつけたところ、 青年には霊感がまったくなく、なにも起こらないという。
 私は青年から、彼氏の電話番号を聞きだし、探偵であることはふせて心霊研究家を名乗り、 翌日正午、仙台駅まえの喫茶店で会う約束を取りつけた。