|
シスター寮跡 |
|
![]() 懐中電灯の光が寮の壁を照らし出した。思ったほど古くない。ただ窓ガラスはすべてなくなっていた。私たちは寮の周囲をぐるりと歩いてみた。風が耳元で鳴り、落ち着かない。 ドアを見つけた。雨風のせいかドアは形が変わってしまい、なかなか開かなかった。 ![]() ようやくドアを開けると懐中電灯の光に下駄箱が照らされた。赤い血のようなものがこびり付いている。不安な気持ちで中を見て回った。寮だけあって部屋は多い。部屋の中はどこもジュースの缶や花火、壊れた家具などで散らかっていた。肝試しのつもりで地元の若者が足を運ぶのだろう。彼らのうちの何人かが怪異に出会い、それが口コミで広がったのかもしれない。 窓ガラスは割れているというのに、なぜかカーテンは残されていた。闇の中で風に揺れるカーテンがこれほど気味の悪いものだとは知らなかった。 階段を見つけた。2階へ上がろうと思った。懐中電灯を動かすと壁に赤いものが見えた。手を止める。字だ。赤い文字で何か書かれている。『呪』と読めた。思わず後ずさりをしてしまった。 ![]() 恐る恐る階段を上がった。 1階とさほど変わりはない。が、畳の部屋があった。 その部屋に入ると何かがきしむのような音が聞こえた。 ―キシッ、キシッ― 鳥肌が立った。 1時間ほどいただろうか。撮影しながら部屋から部屋を移動した。そのうち気がついた。何部屋か、妙な部屋がある。見かけはどうというわけではないが、空気が重い。部屋に拒まれるような、そんな奇妙な感じを受けた。風が強さを増した。ジャケットを羽織りなおす。カメラを握る指先が凍えるほど寒くなっていた。もう十分だった。 調査を終え、寮を出ることにした。 強い風が建物全体を揺らし、どこもかしこもガタガタとなっていた。玄関に急ぎながら、私たちは何かが後ろにいるような不安に駆られた。玄関のドアは閉まっていた。風のせいだろう。開けようとした。固い。ただでさえ開けにくかったドアは貝が口を閉じたように固く閉ざされていた。焦った。私たちは力を合わせてドアを押した。やっと開いた。気配がした。私たちは同時に目を合わせ、振り向かずに外に出た。車までが遠かった。門の前に停めた車を見て、やっと私たちは後ろを振り向く余裕ができた。ざわざわと木々が鳴る中、何かが軋むような音が聞こえる。 何もないじゃないか、と自分たちの臆病風を笑いながら車に乗り込んだ。しかしエンジンが掛からない。セルモーターが空しく回る音がする。だんだん不安になった。バッテリーが上がったら、私たちは朝までここにいなければならない。何かが怒っているのか? そう思った時、エンジンがかかった。 私たちは大急ぎでシスター寮跡を後にした。 昔は、と地元の人たちは言う。いい場所だったらしい。同じ敷地にあった修道院は地元民の憩いの場所で、休日にはよく遊びに行ったという。行っていたという。その面影も今はない。 ゴルフ場建設のために取り壊される話が出たが、立ち消えになった。今では昼間でさえ誰も近づかない。山奥に建てられたシスター寮は住む者を失い、外界とは隔離している。 写真を現像してみると、白い光と白い影がぼんやり写っていた。 シスター寮の噂は地元ではあまり知られていないらしい。廃屋に伴うよくある噂のようだ。シスターの集団自殺も噂の域を出ない。私たちが寮から出る時も残念ながらシスターの霊は現われなかった。しかし、あの背後の気配やかからないエンジンは偶然なのか? 私たちに視る力がなかっただけで、本当は私たちのすぐ後ろに立っていたのではないのか? 三和町にはシスター寮跡の怪異の他に竜伝説もある。古い土地に残された因縁はいまだに力を持ち、時として私たちを知らない世界へといざなうのだ。 |