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《市川市河原の噂》
場所は東京都江戸川区と千葉県市川市の境目で、江戸川が江戸川放水路と旧江戸川とに分かれる辺り。普段は行徳橋によって川と海とに分けられている。
この辺りは、昔はよく水死体が上がった場所。 かつてこの辺りでは水の事故や入水自殺が後を絶たなかったという。
10年ほど前の秋、夕方の6時頃。既に日が暮れてあたりは暗くなっていた。 その日、当時21歳のある青年が買ったばかりのオートバイに乗り、後ろに女友達を乗せて江戸川の土手の上を走っていた。 土手の道は細く、まわりには雑草が生い茂り、走るというよりも歩くような速さで進んでいた。
それまでオートバイに乗りながら2人で話をしていたが、ずっと前方に人の姿らしきものがある事に気づき、青年は話を止めた。女友達もなぜか急に黙り込み、青年にしがみ付いてきた。後で聞くと、訳もなく急に背筋が凍るような気がしたという。
前方を歩く人物との距離が100mほどに接近した。白い着物を着た男が着物の裾を激しく風になびかせ、向こうへ向かって歩いている。しかしその時、風はほとんど吹いていなかった。
近づくにつれ、その男は向こうへ向かって歩いているのではなく、自分たちに向かって進んでいることに気が付いた。
つまり後ろ向きに歩いている!
しかも足の運びはゆっくりだが、かなり速い。 足首が異常に細く、この世のものではない感じがした。
青年と女友達は金縛りに遭ったような状態でそのまま進んだ。やがてバイクは着物の男に追い付いた。青年は男を避けて雑草の中を通り追い越した。
追い越してすぐに2人は振り返った。 そこで心臓が止まるほど驚いた。
男の姿はなかった。 2人は同時に悲鳴を上げ、慌ててバイクを出した。
その後はどこをどう走ったのか覚えていない。だが気がつくと、また土手に戻っていた。 2人は再度悲鳴を上げ、一目散に逃げた。
なんとかオートバイを走らせ、女友達を家に送り届けた青年はやっとの思いで自宅に辿り着いた。真っ青な顔色の息子を見て両親は不信に思ったが、青年はそのままベッドにもぐり込み朝まで震えていた。
3日後の朝、女友達の母親から電話があった。先日真っ青な顔をして帰って来て以来、娘の様子が変で、まったく眠れないという。
青年の母親も息子の様子が変だと感じていたので、双方の母親がともかく2人を呼んで話を聞いた。 母親たちはようやく情況を理解し、その日の夕方2人を現場に案内させ、線香とお供物を供え、全員で手を合わせた。 それ以来、青年と女友達は眠れるようになったという。
母親たちは、この辺りには昔から水死者の魂がさまよっているという話を聞いていた。 後ろ向きに歩くのは霊が浮かばれていなかったもの。
今でも地元の人はしばしば似たような体験をしている。


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