●更新日 04/18●


謎のテープレコーダー 大雪山SOS事件とは


1989年7月24日、大雪山系融雪沢上流の湿原にて、山麓で行方不明になっていた登山者を捜索するため、北海道県警のヘリコプターが上空を飛行していた。するとヘリコプターは登山ルートから大きく外れた場所に、倒木を積み上げて作られた「SOS」の文字を発見したという。すぐさまその辺りを重点的に捜索したところ、遭難者を発見したのだが、事件はこれだけでは終わらなかった。なんと発見された遭難者は、この「倒木で作られたSOSの文字を知らない」と言ったのだ。県警はまだ文字のあたりに遭難者がいたのではないかと考え、捜索を再開。すると、この文字の程近くで野生動物に荒らされた男女の白骨死体と男の荷物と思わしきもの、そして大声で助けを呼ぶ男性の声が録音されたテープレコーダーを発見した。この事件は大雪山SOS事件と呼ばれている。

この事件は発覚当時から様々な謎を呼んでいる。
まず1つはSOSの文字についてである。この文字は3本の以上の白樺の木を積み重ねてつくられていたのだが、この1文字の大きさは2メートルから3メートル程もあった。これだけの大きさの文字を作るのには非常に体力が必要だ。何故これだけの体力がありながらその場に留まりSOSの文字を作り続けたのだろうか。
次の謎は男女の白骨死体についてのものだ。白骨死体を鑑定した結果、1984年頃に遭難した登山者であることが判明し、また荷物から男性の身元を突き止めることが出来た。しかし一緒にいた女性については何の情報も得られず、何らかの事件に巻き込まれたものではないかとの憶測が飛び交った。
最後にテープレコーダーに残されていた男性の言葉である。テープには「がけの上で身動きとれず SOS 助けてくれ がけの上で身動きとれず SOS 助けてくれ 場所は初めにヘリに会ったところ 笹深く上へは行けない ここからつり上げてくれ」(1989年の毎日新聞記事から)と吹き込まれていた。己の体力が尽きかけても助けが呼べるよう、テープに録音しておいたと考えられたのだが、奇妙なのはこの男性が助けを求めていた場所である。先述したように、この男性がいた場所は湿原であり、近くに崖などは存在していなかった。なのに何故、テープレコーダーにこのような内容を録音しておいたのだろうか。

当時は世間を大いに騒がせた事件であるが、現代になって、次第にこの謎は解けつつある。まずは遺体の損傷が激しかったため、当初の鑑定では男女の白骨遺体と考えられていたのだが、鑑定の精度が上昇した結果、男女ふたりと思われていた白骨遺体は、実際には男性一人の物であったということが判明した。またSOSを作った理由だが、下手に動き回るよりも、分かりやすい目印を作って助けを待った方が良い、と判断したと思えば特に不思議なことはない。この2点だけを見れば、単なる遭難であった可能性がある。
だがしかし、テープレコーダーに吹き込まれた内容の謎だけは現在でも不明のままだ。仮に何者かがこの声を聞いたとしても、実際にいる場所とテープの情報が異なるため、別の場所を捜索してしまうだろう。

一説によると、『鉄腕アトム』の中にアトムが月に遭難し、月面に漂着した流木を使ってSOSを作ったエピソードが存在しており、男性はそれを真似て自殺したのではないかとも言われている。男性の荷物の中にはアニメソングが入ったテープ数本に、アニメのイラストが貼られたテープケース、イラストが描かれたノートが入っており、この男性はオタクだったのではないかと推測されていたため、このような噂が流れたようだ。だが自殺するものがアニメの真似をするのはいいとしても、遺書を残さないというのはどうにも不自然である。
そして何故、捜索を混乱させるような言葉をテープに吹き込んだのだろうか。科学捜査の発展によって、その謎が判明する日が来るのを待つしかない。

カセットテープ



山口敏太郎



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