●更新日 06/06●

ぼっとん便所に現れた人影


最近は少なくなった「ぼっとん便所」。
私が子供の頃、祖父の家ではまだそれを使っていました。
小さい私はとにかく暗闇が怖かったので、その家で糞をする時は絶対下を見ないようにしていました。

祖父が亡くなった晩のことです。
私はその便所で糞を放出したのにも関わらず、最後の「ぼっとん」という音がしません。
私は恐る恐る下を覗き込みました。
何も見えません。

気のせいだと思いましたが、再リリースしても音はしません。
私はその時初めて、まじまじとぼっとん便所の中を覗きました。
何も見えません。

しかしじーっと見ていると、少しずつ目が慣れてうっすらと底が見えるようになりました。
すると、ぼっとん便所の底に男の子が座っているではないですか!
私は目を疑いましたが、勇気を出して話しかけました。

「おーい……、そこで何してるの?」

男の子は返事もせず顔を下に向けています。
今度は大きな声で呼びかけました。

「おーい! そこで何してるの!」

力んだせいで糞も一緒に出てしまいました。
同時に私の頭上からも声がしました。

「おーい! そこで何してるの!」

私は上を見ました。
すると、上から糞が降って来て私のおでこに直撃したのです。
それは紛れも無く、私が今出したものと同じサイズ、硬さのものです。

祖父が口癖のように言っていた言葉を思い出しました。
「いくら偉くなっても、自分が偉くなったと思うな。人を見下していたら、いつか自分も同じ様に見下されるんだ」

私はおでこに糞をつけたままトイレから飛び出しました。
「どうした!?」
「なんでもない」
まわりの親族は、まるで祖父の死よりも深刻な出来事が起こったかのように私を見ました。

5年後、祖父の家は父によって建て替えられ、トイレも最新式になりました。
「これが“ウォシュレット”言うんや。シャワーがついとるんやで」
父が自慢げに言うトイレを初めて使った時、どうやって水を流せばいいのかわかりませんでした。
これまでの水洗トイレのようにレバーもあるし、便座の隣にはボタンもある。
私はボタンの方をを押しました。
すると、誰も触れないレバーが突然反時計回りに90度だけ回ったので、私はまた祖父のしわざかと思ってあの時のようにトイレを飛び出しました。
すぐこのことを父に教えましたが、それも自慢げに返されました。

「自動やで」

最新式ではボタンを押したら自動でレバーも動くのです。
あれには驚かされました。



カグウェル


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