今年の夏、都内某大学の女子学生から、おかしな相談を受けた。
「私は文学部に通っています。一年生です。教授の研究室の前で、ある女の人と
すれちがうときに決まってすごい悪寒がして、気分が悪くなり、立っていられなくなるんです。
ええ、友だちといっしょだとすれちがいません。決まって私が一人のときだけです。
気持ち悪くてしかたありません。あの女の正体を暴いてもらえませんか。」
 最近、このようなノイローゼ気味の相談が増えている。彼女もそうなのかな、と疑って
しまったが、しばらく耳を傾けていたら、けっして心の病ではないことに気づいた。
 鬱病からくる偏頭痛などの症状は、時と場所を選ばない。彼女の場合は、間違いなく
その研究室の前のみだけで激しい症状に襲われているのだ。

 彼女がみた女とは・・・・服はいつも同じで、薄いピンクのセーターに紺の
ボックスプリーツのスカート。気づいたときには、彼女の横を横切って研究室にはいって
行くので、一度も顔を見たことがない。研究室のドアを開けて見ようとしても、ひどい
めまいや立ちくらみに襲われ、いつの間にか医務室に寝かされているとのことだった。
 私は尾行調査用のカバンなどに仕込む小型ビデオカメラを見せ、扱い方を説明して
「明日、これを持ってその研究室に行ってみなさい」と言った。