●更新日 10/23●


「中国産が危険なのは日本のせい」と『美味しんぼ』


人気漫画『美味しんぼ』にて、「中国産の野菜が危険なのは日本に原因がある」という趣旨の内容が掲載され、ネット上では批判的な意見が続出している。

当該の作品が掲載されたのは、10月22日発売の『ビッグコミックスピリッツ』No.47(今回掲載した画像は、同誌からの転載)。現在発売中なので、ぜひ実際に手にとって読んでみてほしいが、内容をまとめると以下のようになる。

富井副部長が「中国は金さえ儲かれば他人のことはかまわないんだな」と述べると、山岡が「それは一方的過ぎですよ」と口を挟み、「日本が中国製品を買う理由はなんですか?」と問う。「安いからよ」という声に対して山岡は、中国の農業人口に比べて耕地面積が少ないと述べる。続いて、「それなのに中国の農産物が日本のものより安いのはなぜか」と問いかける。

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ここから、中国擁護と受け取られた流れへと展開していく。日本は中国の農家に対して安いお金しか払わないという問題提起を受けて、山岡は「日本は、中国の農産物を安くしろと要求するから、中国の農家も安く仕上げるために大量の農薬や規格外の薬をつかう」と述べる。そして、日本の外食産業が中国産に大きく依存していることを、週刊朝日の記事を根拠に論じる。

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「中国産品は全部危険だというのは言いすぎだね」と山岡が述べると、富井副部長も同意して「逆に言うと国産品が全て安全かどうかもわからない」と発言し、ここから「食の安全」という一般論へと話題は移っていく。BSE問題や野菜に関する各種偽装が列挙された後に、「中国の食材問題はそのひとつにすぎない」という山岡の発言が再び出る。

実はネット上では、この作品はあまり評判がよくない。「作品中に描かれている内容が事実ではない」、「特定の立場からの物の見方しか示していない」として、反論を掲載するサイトも見られるほどだ。Wikipediaには次のような記述もある。「90年代に入りバブルが終息して以降は、自身が中国出身のためか、貿易摩擦問題や、東南アジアでの難民問題、第二次世界大戦における韓国や中国との賠償問題など、アジア諸国との外交問題などにスポットを当てるようになっていく。反面、「一方的・政治的な主張が過ぎる」という否定的な評価も根強く、現在でも様々な議論を噴出させている。例えば、漫画『コンシェルジュ』には、美味しんぼ69巻収録『野菜が危うい』における無農薬野菜を推奨する結論に対するアンチテーゼとも取れる内容がある。」

個人的な考えを述べるならば、今回の内容は一面的であるという印象を受けた。以前、中国の現状を視察したJA関係者に聞いた話だが、近代化・工業化に伴って耕作地の近辺に巨大な工場が建設されることが珍しくないという。そこから未処理のまま大量の排水が流出すると、近辺の水質や土壌は汚染され、農作物にも壊滅的な被害が出る。収穫量の激減により、農業を続けられなくなって農家は補償金を得て廃業するとしても、それに至るまでの間、毒物まみれの農作物が出荷され続けるのだ。JA関係者の話では、収穫された作物は中国国内で消費されるだけでなく、海外へも輸出されるため、これまで日本にも流通してきた可能性は否定できないとのことだった。

同氏も指摘していたことだが、近代化・工業化を急ぐ一方で環境対策が疎かにされてきたことは、中国産の農作物の危険性を高めた一因となっている。その原因は、明らかに中国自身にあると言えるだろう。「日本が悪い」と叩くだけでは我々の食の安全の問題は解決しない、それが実情である。



高橋



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