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ターゲットの愛人と暮らした甘い日々 パート2

昨日の日記 のつづき

翌週の水曜日、携帯電話が鳴って綾子と再会することになった。喫茶店で2時間ほど話したあと、彼女の電話番号を聞いてあっさりと別れた。そして翌日、デートをする約束をとりつけた。もちろん深い関係になって部長の情報を聞き出すためである。が、探偵の使命感とは裏腹に私の胸は高鳴っていた。綾子は田中美佐子に似た美人で、スタイルも抜群によかった。私の下半身はうずきはじめていたのだ。

その日、都内でギリシャ料理を食べたあと、BMWを駆って横浜へ出向いた。綾子は、夕食のワインが効きほろ酔い気分になっていた。ベイブリッジに着くとキスをした。そして、山下公園に近いホテルに入ると、彼女は自分からシャワーを浴び、全裸のままベッドに横たわった。が、肝心な場面になると、顔を手で覆ったまま泣き出したのだ。

「ごめんなさい、あたし、付き合ってる人がいるんです。」

ターゲットの部長である。綾子は、心から好きなようだ。

「そんな男とは別れて、僕と付き合ってくれ。本当に好きなんだ」

気がつくと、私は仕事のことも忘れて必死にクドいていた。

翌日から寝ても覚めても彼女のことが頭から離れなくなった。1週間後、ついに我慢ができず綾子を私の自宅に誘い込み、強引に迫ってしまった。その後、2人の仲は急速に深まっていった。彼女は私のマンションから会社へ通うようになったのだ。最初の2週間こそ綾子にのめり込み仕事を忘れていたが、やがて寝物語で部長の情報を聞き出すようになった。

「知り合いに古美術商をやってる人がいるんだけど、最近になってプッツリ連絡がとれなくなったんだ。四谷に住んでたんだけど、地上げ屋に狙われたらしくて」

「そういえば、うちの部長も四谷の土地が何とかって言ってたわ」

私は、仕事の関係でどうしてもその人物に会いたいと頼むと、綾子が会社の書類を調べてくれた。私は、それを手がかりに四谷方面の被害者の行方を突き止めた。こうして次々に被害者を探し出し、依頼者たちは被害者の会を結成した。警察に被害届を出させ、ターゲットは詐欺罪で逮捕されることになった。だが、裁判では証拠不十分とされ、懲役1年に4年の執行猶予がついてしまった。私は悔しくてたまらなかった。もう少し時間をかけて多くの被害者を集め、証拠固めをしておくべきだった。綾子を好きになったために彼女を徹底的に利用できず、探偵にあるまじき大失敗を犯してしまったのである。

未練があったが、綾子とは別れることにした。辛さのあまり暫く泣いて暮らした。それ以来、会っていなかった。が、昨年の2月に突然、電話がかかってきたのだ。

「ひさしぶりね。探偵になったんでしょ?雑誌で見て驚いたわ」

私は、胸が熱くなった。懐かしさがこみ上げてくる。

「相談したいことがあるのよ。今の彼氏の奥さんが山梨県に住んでるんだけど、写真を撮ってきてくれない?顔が見たいのよ」

私は、その厚かましい中年女の声に耳にして、昔の切ない思い出はすっかり冷めてしまった。







教訓ファイル 独身探偵のナンパ調査術


調査対象者からの情報収集は、探偵のもっとも重要な任務である。情報を探るためには、ターゲットの妻や愛人に接近し、ホテルに行くことも少なくない。探偵にはプロ級のナンパ術が不可欠なのである。勝負は第一印象で決まるので、焦って声をかけてはならない。しばらく尾行しながら相手の行動パターンをつかみ、退屈そうにしている時を狙ってタイミングよく声をかける。即座に嫌悪感を示されればそれで終わりだが、相手の興味をさり気なく探り出し、流れに沿った会話を積み重ねていけば、相手の警戒心も薄れてくる。

女の興味を引くため、あらゆる職業になりすますテクニックを身につけておく必要もある。われわれ探偵は、日頃からパーティーや会合にまめに顔を出し、いろいろな職種に人脈を広げている。調査に必要な専門知識を仕入れたり、いざという時にどんな業種の人間にも化けることができるからだ。もちろん便宜をはかってもらう見返りに、最低限の経費で調査を請け負うこともある。

ここで紹介した調査記録は、私の独身時代に手がけたものだが、いまだったら違う方法で接近しただろう。調査の度に若い女と寝ていたのでは、夫婦喧嘩が絶えないからである。