●更新日 07/29●
『ガラスの靴』のんさんの日記
私が3歳になるかならないかの頃、母方の祖父が亡くなった。
あまり遊んでもらったりした記憶はなく、覚えているのは、4畳半ほどの和室で布団に寝たきりで、枕元にいつも尿瓶があったことぐらい。この尿瓶が、幼かった私には「ガラスの靴」に見え、触ってみたくて、よく柱のかげから祖父と尿瓶を見つめていたりした。
やがて祖父は亡くなり、家の縁側に面した部屋いっぱいに祭壇をつくり、縁側を開放して通夜は行われ、真っ暗な周囲の中で祖父の家だけが煌々と明るかったのをおぼえている。
通夜振る舞いで、大人たちが別室に集まりだし、まだ小さかった私は、親戚の高校生ぐらいのおねえさんに任される形で、祭壇の前にぽつんと座っていた。祭壇の真ん中には、祖父の写真。見たことのない、やさしい笑顔をしていた。
その顔を見ていて…私は不意にひらめいた。
「そうだ、ガラスの靴…今なら!」
私は、いつも祖父が寝ていた一階の隅にある和室に向かい、どきどきしながら引き戸をあけると…
当然のことながら、そこには見慣れた布団も祖父もガラスの靴も何も無い。私は部屋の真ん中まで進むと、がっかりしてその場に座り込んだ。
「ガラスのお靴、どこいっちゃったかなぁ」
たぶん、声に出して呟いたときだったと思う。
「靴じゃあれせんよ。『しびん』だでね。」
背後から、祖父の声がしたのである。
「しびん?」
振り返ると、そこには押入れがあった。
「おじいちゃん、どうしてそんなとこに入ってるの?」
言いながら押入れをあけると、下の段の目の前に、しびんはあった。
「あった!ガラスのお靴のしびん!」
私は大喜びでそれを取り出し、周囲をきょろきょろと見回してから、そっと足を入れてみた。
一番奥までは入らなかったけど、足先だけでも履くことができて、私はシンデレラ気分でご満悦になった。
尿瓶だったわけですけども。
のん
あまり遊んでもらったりした記憶はなく、覚えているのは、4畳半ほどの和室で布団に寝たきりで、枕元にいつも尿瓶があったことぐらい。この尿瓶が、幼かった私には「ガラスの靴」に見え、触ってみたくて、よく柱のかげから祖父と尿瓶を見つめていたりした。
やがて祖父は亡くなり、家の縁側に面した部屋いっぱいに祭壇をつくり、縁側を開放して通夜は行われ、真っ暗な周囲の中で祖父の家だけが煌々と明るかったのをおぼえている。
通夜振る舞いで、大人たちが別室に集まりだし、まだ小さかった私は、親戚の高校生ぐらいのおねえさんに任される形で、祭壇の前にぽつんと座っていた。祭壇の真ん中には、祖父の写真。見たことのない、やさしい笑顔をしていた。
その顔を見ていて…私は不意にひらめいた。
「そうだ、ガラスの靴…今なら!」
私は、いつも祖父が寝ていた一階の隅にある和室に向かい、どきどきしながら引き戸をあけると…
当然のことながら、そこには見慣れた布団も祖父もガラスの靴も何も無い。私は部屋の真ん中まで進むと、がっかりしてその場に座り込んだ。
「ガラスのお靴、どこいっちゃったかなぁ」
たぶん、声に出して呟いたときだったと思う。
「靴じゃあれせんよ。『しびん』だでね。」
背後から、祖父の声がしたのである。
「しびん?」
振り返ると、そこには押入れがあった。
「おじいちゃん、どうしてそんなとこに入ってるの?」
言いながら押入れをあけると、下の段の目の前に、しびんはあった。
「あった!ガラスのお靴のしびん!」
私は大喜びでそれを取り出し、周囲をきょろきょろと見回してから、そっと足を入れてみた。
一番奥までは入らなかったけど、足先だけでも履くことができて、私はシンデレラ気分でご満悦になった。
尿瓶だったわけですけども。
のん
・のんさんの日記 『連帯保証人1〜おねがい〜』 ・のんさんの日記 『連帯保証人2〜他人事〜』 ・のんさんの日記『1歳の娘の記憶』 |