●更新日 06/18●







ジブリが反原発の横断幕、その真意と背景





記事前半は、ここをクリック

スタジオジブリが掲げた反原発のメッセージが、各方面で反響を呼んでいる。

写真

宮崎駿監督は、人と自然との関係について様々な機会に言及し、自身の作品の中でも題材としてきた。とはいえ、今回のように政治に関わる問題について、直接的に賛否を表現することは、あまりなかったのではないだろうか。

この点について、アニメ業界に関わる人物は、「元々、盟友の高畑監督とアニメ界で労働争議だのなんだのやってた方だったかとは思うのですが」という。東映動画に勤務していた頃、労働組合の書記長を務めていたという宮崎監督。政治や社会の問題に積極的に関わっていこうとする姿勢は、昔からあったようだ。

また、「千と千尋の神隠し」のDVDに収録された映像の赤みが強いと話題になった時期に、「日本はみっともない国になりました」と宮崎監督が週刊誌で発言したことに、業界関係者は着目する。「法律違反にさえならなければ、何をやってもよい」という風潮への批判である。このことは、原発問題への諸々の対応にも、もしかしたら当てはまるのだろうか。

宮崎監督の表現については、研究者や評論家の間でも、幾度となく論じられてきた。その一つが、作品には「変節」や「転向」があるという見方だ。「オタクとの決別」、「もはやアニメ作家とは別次元の映像作家」などと言われてきた。この点について、社会や映画の批評も手がける精神科医の斎藤環氏は、著書「文脈病」(青土社)で異論を提起している。

写真

「『変節』ないし『転向』と見えたもの、そのほとんどは設定上の変更にすぎなかった」という。「風の谷のナウシカ」、「となりのトトロ」、「紅の豚」といった作品を挙げ、各作品の違いを比較した上で、次のように書いている。
「表現技法の細部に視点を移しかえるなら、そこにはいささかも変節の痕跡はない。『テーマ』の振幅は、むしろそれを支える技法の普遍性を証し立てるものだ。」

これこそが、「宮崎ブランド」なのだという斎藤氏。「宮崎自身が、自らの『テーマ』も『思想』も、きわめて明晰に語り尽くしている。私は彼自身の言葉を越える作品論を、いまだ知らない」。斎藤氏が主に参照しているのは、雑誌に掲載された宮崎監督本人の言葉である。

横断幕という、映像作品以外の方法で自らの思いを表現したことを、宮崎監督の「変節」と捉える人々も多い。しかし、業界関係者や斎藤氏の見解が正しいとすれば、その「変節」は表面的なものであり、根底には一貫した「宮崎ブランド」があるように思える。



高橋




◇上記のタグを自分のサイトに張ってリンクしよう!


探偵ファイルのトップへ戻る

●
今月のインデックス
●