●更新日 03/11●


抗鬱薬で患者が凶暴化する?


抗鬱薬の作用によって攻撃的になる可能性が高いと報じられ、各所で話題になっている。

抗鬱薬については、2009年2月にNHKで放映された特番をはじめ、新聞等でも取り上げられてきた。パキシル等の抗鬱薬を服用した患者に、攻撃的反応が見られるケースが多く確認されているという。抗鬱薬が原因と見られる暴力事件、殺害事件もあり、厚生労働省も調査を開始するとのこと。



ただし、暴力行為と抗鬱薬との因果関係が明確ではないものもある。そのため、「鬱病以外の患者への誤投与や、別の薬との飲み合わせにより他害行動が誘引されたケースも考えられ、精査が必要となる」(3月7日の産経新聞)。この問題について、都内の大学病院に勤務する精神科医に話を聞いた。

同氏曰く、問題のショッキングな側面が強調されて報じられることを危惧しているという。各種の抗鬱薬を処方されつつ日常生活を送る人は多い一方、そうした人々が犯罪者予備群のように見なされる傾向が助長され得るということである。また、薬の副作用が問題視されるようになった結果、患者に処方すること自体が過剰に否定的に評価されようとしているのではないかという。



そして、事件と薬物との関係についても、容易には確定できないと述べた。全日空ハイジャック事件では、犯人は事件当時に判断能力が著しく低下していたとして、心身衰弱であると鑑定された。ところが、検察側の鑑定結果に対し弁護側は、犯人は心身衰弱ではなくアスペルガー症候群であると主張した。このように、当人の精神状態に関してさえ鑑定結果が分かれることは珍しくないというのが実態である。

更に、検証そのものが困難であるとのことだ。事件当時の犯人の様子を逐一観察でもしていない限り、当人の精神状態を全く正確に記述することなどできない。つまり、精神鑑定というのは常に事後的な性質のものにならざるを得ない。そのため、精神鑑定という行為そのものに懐疑的な立場の研究者も存在するという。だが、どのような立場から論じるとしても、薬物の投与量や副作用及びその影響については、今後も研究が重ねられるべきであると強調した。

一方的な報道やそれに基づく議論の結果として、抗鬱薬を必要としてきた患者が一層困難な立場に追いやられるようなことがあってはならないだろう。報道する側だけでなく情報を受け取る側の人々にも、慎重な姿勢を望みたい。




高橋



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