●更新日 11/04●




刑事さんの憂鬱(終)   〜精神鑑定医逮捕の裏側




昨年、奈良県で医師の長男(中学生)が、父に勉強を強いられた重圧から自宅に放火し母子3人を殺害したという事件が起こった。
その後、講談社から「僕はパパを殺すことにした」が出版。著者は女性ライター草薙厚子氏だが、この本の中で長男の調書が引用された。
長男を精神鑑定した鑑定医が、調書を漏洩した秘密漏示の容疑で逮捕された。
この事件について、前号に登場してくれたベテラン刑事に話を聞いた。

この監察医逮捕は実際のところ、どういう状況だったのですか?

本の著者である女性ライターは、以前からノンフィクションライターとしての幾つかの著作があったんだが、執筆の際に意見を求める知人として、この京大教授である監察医とは知己の仲だったんだ。
で、この事件についてもこの監察医に取材をしたんだが、その際、監察医は調書を前において取材に応じていたそうだ。「これを見ながらお話しましょう」という形 で。
ところが、監察医が席を外した時、女性ライターはこの調書をデジカメで撮影したんだよ。
監察医にしてみれば親交のある女性ライターがそんなことをするとは思っていなかった。
そして、女性ライターはデジカメで撮影した内容を本に転記。講談社がそれを本にして出版したというわけだ。
女性ライターには、はじめから「隙あらば調書を撮影してやろう」という意図があったんじゃないだろうか?
だとすると、監察医にしてみれば調書の内容を転記させるつもりなどないのに、席を外した時に盗み撮られたということになる。
なのに、逮捕されたのは監察医だけ。女性ライターと本にして発売した講談社は、両方とも刑事罰なし。確かに法律上では「調書を彼女の前に置いた」という、その時点で「秘密漏示」の罪になるし、情報の漏示を受けた側を取り締まる法律はない。しかし、これでは片手落ちじゃないか?

講談社と喧嘩したくなかったから身内だけを切ったんですね。

そして、この逮捕の背景を考えてみると、現在導入されつつある「裁判員制度」が関係しているという見方が出来る。
この制度で裁判員になった一般の人は、調書や報告書といった守秘されるべき裁判記録を見ることになる。しかし、もしその人がデジカメでそれを撮影し、ネットに書き込むなどしたら大変なことになるだろう。
それを防止するために「そういったものを漏洩するのは、刑事事件なのだ」と世に知らしめ、釘を刺しておく必要がある。そのために地検が動かされ、今回の鑑定医逮捕となった。
今後、裁判員制度が普及し調書などの裁判記録を一般の人が見ることになっても「このような事案で逮捕された人もいるのです。調書は他に漏らしてはなりません」と釘を刺すことができるようになる。

つまり、今回の鑑定医逮捕は政治的な意図がからんだ国策捜査の可能性があるわけですね。
その他、国策捜査には過去にどんなものがありましたか?


あからさまになることはないけれど、後から考えてあれは国策だったんだなと思われるのは、何年か前、厚生省の事務次官が業者からお金をもらって便宜を図っていた事件。あれは検察庁が動いた国策捜査だったんだと思う。
それから、共産党の党員が選挙のチラシを警察官の家に入れて建造物侵入で逮捕された事件。「チラシを配るために敷地に入った」なんて、普通は逮捕まではいかないもんだ。

確かに。あの一件で共産党のビラが激減しましたね(笑)。






反響の大きかった現役刑事さんのお話はこれで終わりにします。
『表があるから裏がある。』
どんな世界にも。



BOSS



◇上記のタグを自分のサイトに張ってリンクしよう!


探偵ファイルのトップへ戻る

前の記事
今月のインデックス
次の記事