達人vs私は何も知りません男

問題の会社は「セントスプリングス�梶vというペットの葬儀社。
相談者は数年前に愛犬の永代供養を同社に頼んでいた。
しかし最近、偶然からそこが閉園されていたことを知ることになった。

永代供養を頼んでいたのに、それができなくなったというのなら、その連絡はあってしかるべきだろう。預けている遺骨を引き取らねばならないし、支払った代金の返却などの話にもなるはずだ。
しかし、その連絡がなかった。
墓が無くなるというのに、そのことを知らされない飼い主たちはどうなるのか？
その会社に預けていたペット達の遺骨はどうなるのか？

ＢＯＳＳは事情を聞くために六本木にある「セントスプリングス」を訪ねた。
私、九坪は記録係として同行する。





応じたのは「ヤジマ」と名乗る男性だった。

『私はアルバイトでここにいるだけの留守番です。詳しいことは何もわかりません。
名前と住所をうかがっておきましょう。後日、手紙で連絡をします』




ＢＯＳＳが質問をはじめる。

なんのアルバイトですって？
留守番です。
名刺をもらえますか？
名刺はありません。アルバイトですから。
会社側の方なんですか？　経営者の方は？
経営者はいなくなりました。
いなくなった？　逃亡したってことですか？
わかりません。私は留守番を頼まれただけのアルバイトです。
わからないのに留守番をしている？
はい。訪ねてこられた方の住所と名前を聞いておくだけです。
その人たちはどう言っているんです？　ペットのお墓が無くなると聞いて。
大抵『しょうがないな〜』ということで……
『しょうがないな』で終わってるんですか？　保証金を払って永代供養を頼んだのに？
保証金というか、お預かり金ですね。
それは「もし不都合あれば返します」というお金ですよね。
そうですね。
返してるんですか？
どうでしょう。わからないです。
経営者に聞かないとわからないってことですね。なにか、経営者を追いかける手がかりはないですか？
わかりません。




手紙を送るというのは経営者の方ですか？
「ヤスダ」という人です。
ヤスダさん？　あなたはその方に頼まれたわけですね？
はい。
どういう頼まれ方をしたんですか？
留守番してくれと言われただけです。
どちらのヤスダさんなんですか？　下の名前は？
私は知りません。ヤスダさんとしか。
ではヤスダさんの連絡先を教えてもらえませんか？　それが一番早そうだ。
いえ。ヤスダの方から手紙で連絡が行きますので。
こちらから連絡を取りたいんですが。
連絡は取れません。ヤスダの方から手紙で連絡しますので。
でも、あなたはヤスダさんと連絡が取れるんですよね。ヤスダさんに紹介されて、ここにいるわけなんですから。
はい。
その連絡先や電話番号を教えてくれませんか？
お教えできません。これは個人の携帯電話ですから。

要するに、
「私はただのアルバイト。何を聞かれてもわからない」
「後日、上の人（ヤスダ）が、書面で連絡する。こちらの連絡先は教えない」
「今日のところは、さっさと帰れ」

窓口になった者が、招かれざる訪問者を追い返す際によく使われる手だ。
通称「なにも知りませんバリア」（命名：九坪）

達人ＢＯＳＳはいかにしてこのバリアを突破するのであろうか？
そもそも、突破できるのであろうか？

（次回へ続く）



九坪