●更新日 06/07●


「引きこもり」と「捨て犬」の目指すもの


横浜駅の西口を通りかかると、募金箱を抱いた犬のぬいぐるみを見かけることがある。

写真 「補助犬」促進のための募金運動である。

補助犬には3種類ある。

「盲導犬」……目の不自由な人の生活を補助する。
「介助犬」……身体の不自由な障がい者や高齢者の生活を補助する。
「聴導犬」……耳の不自由な人の生活を補助する。


そして全国で実働している補助犬の数は以下の通り。

盲導犬:965頭(平成19年3月31日現在)
介助犬: 39頭(平成19年12月1日現在)
聴導犬: 13頭(平成19年12月1日現在)


言うまでも無く少ない。特に聴導犬の少なさは一際で、35万人以上と言われる聴覚障害者の数に比べれば絶望的な頭数といえる。

その聴導犬の訓練施設のひとつが先月8日、横浜で開設された。

写真
「あすなろ学校」

しかし、ここはただの聴導犬の訓練施設ではない。
訓練される犬は動物愛護センターなどから引き取られた「捨て犬」
それを訓練するのは「引きこもり」「ニート」「障害者」など、社会的問題を抱えた若者たち。

「飼育放棄された犬の救済」「若者の社会自立支援」「聴導犬の育成」
3つの問題を一度に解決するために設立された施設なのである。

入学者には各一頭の“担当犬”が与えられ、その世話と訓練を任される。
在学する6ヶ月の間、彼らは施設内で寝食を共にしつつ、犬は聴導犬になるための訓練を受け、入学者は犬を訓練しながら、犬関連の事業や福祉の基礎を学ぶことになる。

写真 ※同HPより


開設から一ヶ月が経つこの「あすなろ学校」について、スポンサー企業である「日本サムスン(株)」に話を聞いてみた。

――設立のきっかけはどういったものだったのでしょう?
実はこの学校、アメリカのとある少年院がモデルになっているんです。
そこには服役者に犬を一匹与え、その世話を任せるいう制度がありました。
犬の飼育を通して服役中の若者に愛情や情操を学んでもらおうという制度です。
当初は、私たちもそこと同じことをしようと考え、法務省などに掛け合ったのですが、どうも日本では難しいようでした。
だったら自分達でそういった施設を作ろうということになり、約2年の準備期間を経て、先月開校となったわけです。
入学定員は一期につき5名。年間10頭の聴導犬の育成を目指しています。
第一期である今回は3名の若者が入学しました。

――犬の選定基準や若者の入学資格はどういったものでしょう?
犬に関しては、動物愛護センターなどで保護された犬の中から、提携している「日本補助犬協会」に適性のある犬を選んでもらい、譲り受ける形です。
若者の入学資格は18〜30歳程度で、将来、犬関連の業種への就職を望む方。それから、共同生活のできる方。
ただ、今のところ入学者は施設(自立援助施設、福祉施設など)を卒業した人に限定しています。
将来的には一般からの入学希望者も受け入れていきたいものですが。

――もっと大規模化していく予定なのですか?
いえ、今のところ規模を拡げることは考えていません。
数を増やして質が落ちることも避けたいところですから。


写真 ※音を教える聴導犬

年間10頭と聞くと少なく感じるかもしれないが、それでも国内最大級の育成施設だ。
「捨て犬を補助犬へ」というシステムは動物愛護の観点からも喜ばしく、問題を抱えた若者たちへのアニマルセラピーとしての効果も期待されている。
ただし、自分が訓練した犬を愛犬として譲り受けることはできない。

――6ヶ月の間、自分が片時も離れずに訓練した犬となると情も移ること思いますが?
おっしゃる通りです。しかし、こればかりは仕方ありません。
ここは聴導犬育成や自立支援を目的にした訓練施設なんですから。


卒業後、犬たちは補完訓練を受けて聴導犬としての実働へ向い、卒業者たちには「訓練士」や「ペット業界」への道が開かれているという。

写真

捨てられた犬を救い、若者の自立を促し、補助犬を数多く育成しようという一挙三得のこの試み。
ぜひとも、うまくいってほしいものである。



九坪



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