●更新日 05/20●


事件編




Dさんは以前からA子ちゃんのことを不憫に思っていました。

DさんはA子ちゃんのお母さんであるMさんの妹。つまり、A子ちゃんの叔母さんに当るのですが、 Mさんについては、わが姉ながら「キチンとした母親」とは言い難かったからです。

家事やA子ちゃんの世話も、ちゃんとしていなかったようですし、なにしろ派手好き、遊び好きな性格。それが原因で前の夫(A子ちゃんの実父)とも別れてしまったくらいです。



さらに、あきれたことにMさんは離婚してすぐ別の男性、Eさんと同棲を始めました
おそらく、離婚する以前からつきあっていたのでしょう。
加えて、このEさんはあまりA子ちゃんを可愛がってはいないようなのです
たまに訪問すると、A子ちゃんがEさんに怯えている様子がありありとわかります。

いい加減な母親と、その母親がいきなり連れてきた見知らぬ男。
そんな2人と暮す幼いA子ちゃんが、負担を感じないわけがありません。

そんなわけで、Dさんは暇を見つけては姉の家を訪れ、A子ちゃんの世話をしてあげていたのでした。



ある日のこと。
DさんはMさんから「今夜、Eと遊びに行くからA子の面倒をみておいてくれない?」と頼まれました。
(自分の子供を放っておいて“遊びに行く”もないもんだわ。)
Dさんは思いましたが、以前から気にかけているA子ちゃんのことです。引き受けて、姉の家へ向いました。

久しぶりに会うA子ちゃんはなんだか元気がない様子でした
気になってよく見ていると、なんだか体を動かすたびに辛そうに顔をゆがめているようです。
「どうしたのA子ちゃん?」
声をかけながら、なにげなくA子ちゃんの腕に触ると

「いたいっ!」

A子ちゃんが悲鳴をあげました。
「どうしたの? 怪我したの? ちょっと袖をめくって腕を見せて?」
Dさんは言いましたが、A子ちゃんは首を振って嫌がります。
しかし、怪我をしているのなら放っておくわけにもいきません。言い聞かせつつ、袖をめくったDさんはA子ちゃんの腕を見て息を飲みました。



A子ちゃんの両腕にひどい火傷があるのです。
直径1cmくらいの深い火傷。
しかも、ろくに手当てもしていない様子で、傷口は化膿しています。

(これ……煙草を押し付けた火傷じゃないの?!)

「A子ちゃん、ちょっと服を脱いで裸になってみて?」
嫌がるA子ちゃんを説き伏せて服を脱がせ、Dさんは更に絶句します。


A子ちゃんの体には、あちこちに痣や擦り傷があるではありませんか。

特に目をひくのは両腕と右足の火傷の跡です。
明らかに煙草を押しつけてできた火傷が合計4箇所も!


(虐待!!)

「A子ちゃん! この火傷、どうしたの?」
問い詰めるDさんにA子ちゃんは、ぽつりと答えます
「……ころんだの」
「転んでこんな火傷ができるわけがないじゃないの! 煙草を押し付けられたんでしょ! 誰にやられたの?!」
「…………」
A子ちゃんは答えません。

Dさんはすぐに警察と児童相談所へ連絡。
翌日、A子ちゃんは児童相談所に保護されることになります。



A子ちゃんの火傷の程度は「UD」(深真皮熱傷)。
大人でも顔をゆがめるほどの深い火傷。それが手当てもされずに放っておかれていたのです。
診察する医師。児童相談所の職員。捜査のために訪れた警察官。
大人たちが口々にA子ちゃんに尋ねます。

「いったい、誰がこんなことをしたの?」

「たばこ……じゅっ、じゅってされたの」
「お母さんの持っていたたばこが当ったの」
「お母さんのたばこの灰が落ちたの」


幼いA子ちゃんの答えは二転三転しました。まるで何かに怯えているかのように。


「誰かがA子ちゃんに火のついた煙草を押し付け、誰にも言わないように脅かして口止めしている。」
それはもう誰の目にも明らかなことでした。

母親であるMさんと、同棲相手のE氏にも事情聴取がされます。2人の証言は全く同じでした。
「そんな火傷があることなど知らなかった。煙草を押し付けたりしていない。」

脅され、怯えて本当のことを話さないA子ちゃん。
全てを否定し、何一つ認めない母親とE氏。
周囲の大人たちは、どうすることもできません。

そして、児童相談所に保護されて数ヶ月がたった頃。
心を開いた職員にA子ちゃんは、こう話します。

「Eさんに、じゅってやられたの。4回……」

数ヶ月の時間を経て、ようやく「脅し」は効力を失ったようです。
A子ちゃんの証言はもう翻ることはありませんでした。

警察はE氏を傷害罪で起訴することになります。

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さて、裁判員の皆様。
被告:E氏にどのような判決を言い渡しますか?



実際に言い渡された判決はこちら⇒「判決編」






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