●更新日 05/15●


悪口を言ったら30万〜原告の言い分〜


子供の喧嘩のようなこの裁判。事件のあらすじは前回のとおり。
関係者への取材として、職場の同僚の人々や被告である小野寺さんに話を聞いてみると、事件の背景が大体見えてきた。



そんな中で、とりあえずわかったことがひとつ。
事件の舞台となった某コールセンター内において、

原告:佐野くんの評判は最悪。
・あの男は普段からおかしい。26歳にしては、とんでもなく幼稚
・職場内では空気を全く読まない発言を繰り返す。かなり浮いた存在。
・仕事をしない。仕事を覚えない。やる気がない。口にするのは言い訳ばかり。
・そのくせ、時間になるとさっさと帰ってしまうから、彼のシフトの後は引継ぎは大変。
・なのに「仕事を教えるから……」というと「必要ない」と拒否をする。
・プライドだけは異常に高い。人の言うことを聞かない。
・上司が「佐野」と呼ぶと「今、ボクを呼び捨てにしましたね? ボクのことを卑下しているわけですか?」などというやりとりもあった。
・注意すると「ボク以外にもできない人はいますよね?」「仕事もないのに、なにをどうやって勉強しろというんですか?」と開き直る。
・あまりの言動の幼稚さに忠告すると「ボクは訴えられるようなことは、何一つやってない」
・考えても考えても、彼の長所は思いつかない。
・関わり合いになりたくない。注意もしたくない。下手に口をだすと訴えられるから。
・もう、優しく、見捨ててあげるしかない人。

……キリがない。
そのせいなのか、佐野くんは4月末で退職している
『同僚の証言』
くだらない裁判を起したことで同僚や会社に更に嫌われ、職場にいづらくなったたせいですよ。ま、本人は「学校の勉強が忙しくなったから」って言い張るでしょうけどね。

これらの情報を集めた上で、最後に原告の佐野君に話を聞いてみた。
ただし、佐野くんには、記者がすでに事情を調べていることは伝えずに。

“なにも知らない記者”に対して、どんなことを話してくれるのだろうか?

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【佐野くんの言い分】

「言いたいことは訴状の中に書いているんですけれど、それ以外にもいろいろあるんです。」


――そうなんですか?
「小野寺は私に『仕事してない』って言いましたけど、そもそも、あの職場にはほとんど仕事がないんです。そんななかで『おまえは仕事をしない』なんて言われるような筋合いはないんですよ。
また小野寺は『勤務中に耳栓をしていた』なんてことも言ってますが、耳栓をしていてもちゃんと周りの音は聞こえていて業務に支障はありません。
確かにヒマな時間に自分の勉強はしていましたが、そんなことは職場のみんながやっています。インターネットで遊んだり、ゲームをしたりね。あの職場は、本当に仕事が無いんですよ。」
――なるほど。しかし、その言いようでは会社の人が聞いたら怒りませんか? まるで「この仕事はヒマだからサボってもいいんだ」と言う風に聞こえます。私の価値観かもしれませんが……
「仕事の内容や実態をわかっていないあなたの価値観で評してほしくはないです。」
――そうですか。
(誰が聞いてもそう思うんじゃないかなあ?)

「で、小野寺が影でボクの悪口を言っているというのを聞きつけて、それを本人に問い詰めたら、ボクは声を荒げてはいないのに小野寺が大声を出し、それで口喧嘩になったんです。」
――そうなんですか。
(あ……嘘ついた。)
『同僚の証言』
裁判の文書では、いかにも「佐野は落ち着いて話をしたのに、小野寺が大声を出した。」みたいに書いてますけど、先に大声を出したのは佐野 君の方なんです。パーテーションを“バン”って叩きながら『どういうことだよっ!』って大声で問い詰めたんですよ。 かなりの大声でびっくりしました。それで小野寺さんも「はあああっ!」って大声を出したんです。

(裁判の文書では自分の声量については一言も書いていないし……「口喧嘩を吹っかけたのは自分の方」ということは隠しておきたいんだろうな。)

「で、上司が間に入って話し合いの席が設けられたんですが、その上司も完全に小野寺側に立った話し合いだったんです。これは小野寺と仲のいい同僚が会社や上司に私の悪い評価を吹き込んだせいだと思います。」
――なるほど。
「その謝罪の席で小野寺は一応謝ったんですが、到底、謝罪するような態度じゃなかったんですよ。不貞腐れた様子で、とても謝罪 しているような態度じゃなかったんです。
――はあ。そうなんですか。
(これは、本当なんだろうなあ。)
『同僚の証言』
小野寺さんは、嫌いだと思った人にはそれを隠さないんですよ。もろに態度に出してしまう人です。性格がキツイというか、好悪がはっきりしているというか。
だから謝ったにしても、さぞかし不貞腐れたような態度だったんだろうなって思います。
もう少し大人の対応をしていれば、こんなことにはならなかったんでしょうけどね。


「ボクとしては、この仕事は先ほども言ったようにヒマで楽な仕事だったので失いたくなかったんです。で、その時は謝罪を“聞いた”ということです。受け入れてはいません。」
――そうなんですか。
(また嘘ついた。)
『同僚の証言』
で、その話し合いのあと、ずっと不満顔を続けていた佐野君を心配して、上司が「あの話し合いで大丈夫だったか?」と確認したんですが、そのとき「大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」と返答していたそうです。

(どうも正直じゃないなあ、この人。 自分の気分で事実を曲げるクセがあるみたいだ。)

「大体、ボクは裁判なんてしたいと思っていませんでした。なんとか訴訟を避けようとしていたんです。
実際、裁判の最初と途中に、和解のための通知書を送っているんです。ところが小野寺はそれを2回とも無視しました。それで、しかたなく訴訟という形になったんです。その通知書は裁判資料には出していませんけどね。」
――そうですか。それじゃあ私は見れませんね。
(まあ、その通知書、すでにこちらの手元にあるんだけどね。)



内容を、簡単に言うと、
・現在「名誉毀損罪」と「侮辱罪」で刑事告訴を検討している。
・名誉毀損と侮辱発言を認め、30万円を払えば和解する。
・和解の応じるなら訴えを取り下げるし、刑事告訴もしない。

もっと簡単に言うと、
「刑事告訴するぞ。謝れ。30万払え。」

(普通“和解の提案”といえば「お互いに譲歩」というものなんだけど……これじゃ“和解の提案”というより“脅迫”に近いなあ。)

――なるほど。では最後にお聞きしたいんですが、今回の件に関して「こういう点が自分も良くなかったかなあ」など、佐野さん側に反省すべき点はあるでしょうか?
「今回の件に関しては一切ありませんね。」
――では、もし訴えが棄却されたら?
「もちろん控訴します。」
――そうですか。
「まあ、今までの裁判の感触では棄却というのはあり得ないですね。請求どおりの30万は無理でしょうけど。この裁判を起したことに意味があるんです。『小野寺が違法な発言をした』ということが認められれば、金額は5万でも10万でも構わないと思っています。」
――そうですか。どうも、わざわざお話いただいてありがとうございました。

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前評判はともかく「本人に会って話を聞けば、意外にいい奴かもしれない。」などと期待していたのだが、やっぱりそんなことはなかった。
「不正直」な上に「自己中心的」で「自分本位」。加えて「常に上から目線」。
取材として普通に話を聞いているだけなのに、ムカムカしてくるというのも珍しい。

なるほど、あれでは職場でも嫌われるだろう。

・仕事や職場をナメきっていて、物事の解釈は常に自分本位。
・プライドが高く、人の意見には耳をかさない。
・常に正しいのは自分であり、非があることなど一切認めない。

要するに、この原告の佐野くん


ただの痛いガキ。


改まった口調でもっともらしく書き綴った訴状も、今となっては「プライドを傷つけられたガキが地団駄を踏んでいる」としか読み取れない。
しかし、じゃあ小野寺さんはというと、こっちだって大人だとは言い難い。
相手が「痛いガキ」だとわかっているのだから、適当にあしらっておけばいいものを、下手に挑発するような態度をとるからこういうことになる。

さて、現在進行中の「ガキvsガキ」。
裁判官はどのようにジャッジするのであろうか?



判決は今月の20日ごろに言い渡される。

(続く)



特捜班:九坪



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