●更新日 04/21●


判決編


(判  決)

原告:Oの請求を棄却。被告:Pに損害賠償の責任はなし。


(理  由)

ペットの飼い主には、そのペットが他人に損害を与えた場合、これの賠償を行う義務がある。
しかし、飼い主が十分な注意をもって管理しており、にもかかわらず発生してしまった損害においては賠償の責任はない。これは民法第718条に定められている通りである。
民法718条(動物の占有者等の責任)
動物の占有者はその動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。

これに照らして見た場合、P家の飼い犬「ラッキー」はP家の自宅敷地より、道路に1犬身出られる状況で繋留されていたものであり、これは「相当の注意をもって管理」していたとは言い難い状況である。

よって、P家がラッキー管理義務を怠っていたことは否めない。

しかしながら、本件事案に関してのみ見れば、その状況は以下のように認められる。
@ラッキーは本来、大人しく従順な飼い犬であり、過去、通行人に危害を加えたことは一度も無く、また、通行する子供たちにも頭を撫でられるなどして可愛がられる、温和な性情であった

AOは自分の飼い犬である「メリー」5年以上、愛着をもって飼育していた。

BOは、約一ヶ月前、メリーラッキーが喧嘩したことで、ラッキーに対して好感をもっておらず、むしろ嫌悪感をもっていた。

Aに見られる通り、には犬の飼育経験が5年以上ある。
つまりは、犬の性質や行動について相当の知識を有していたものであり、犬に接近する際、その犬が親愛の情を示しているのか、危害を加えかねない状態であるのか、容易に判別できたはずである。

よって、
「Oが親愛の情を見せながら、危害を加えかねない状態のラッキーに近づいたので咬まれた。」
という状況は考えられない。

更に、Bの状況、及び、事件発生時のラッキーが食事中であったことを加えて考えれば、
「ラッキーが親愛の情を見せており、Oも親愛の情を示すために近づいたら咬まれた。」
という状況も考えられない。

なれば、ラッキーが食事中、つまり、犬の感情が刺激されやすい状態の時に、
「ラッキーの食事を妨害しようとして近づいた。」あるいは「ラッキーに何らかの危害を加えようとして近づいた。」としか考えられずその結果、反撃的に咬みつかれたものであると判断せざるえない。

すなわち、本件はP家によるラッキーの管理状況に関連なく、

Oの自招行為によって発生したものと認められる。

なれば、本件に関してOが受けた損害を、Pが賠償する責任は存在しない。
よって、原告:Oの請求を棄却。被告:Pの損害賠償責任はないものとする。




いかがだったでしょう?

実際のところ「飼い犬が通行人を咬んでしまった」という事件は頻繁に起きていますが、大抵は「飼い主の管理不行届き」「飼い主は損害賠償せよ」という判決が言い渡されています。

今回のように「咬まれた方の自招行為」という判決が下されるのは、非常に稀なケースなのです。
厳しい見方をすれば、このケースだって、Pさん一家がラッキーを道路に出さないようにしていれば、防げたはずの事件なのですから。

「ペットを飼う」ということは「命を預かる」ということ。
そして、その命が生み出す「一切の責任を負う」ということ。


飼い主の皆様。ゆめゆめお忘れになりませんように。



特捜班:九坪




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