●更新日 03/01●


なぜ「ひきこもり」の大半が男性なのか?


東京都が先頃発表した、ひきこもり問題についての調査結果には、興味深い事実が数多くある。中でも目を引くのが、ひきこもりの7割以上が男性であるという点だ。

調査結果を見ると、年齢層としては30〜34歳が最多で、ひきこもり全体の4割以上であるという。10代や20代の割合は、2割以下だった。ひきこもりの原因としては、職場への不適応や就職の失敗などが4割近くを占めていて、20代半ばからひきこもり状態になった人々が多いようだ。また、ひきこもり状態にある人々は、家族との人間関係もうまくいっていない場合が多いという。

今回の調査結果を纏めたのは、明星大学の高塚雄介教授。同氏がweb上で公開している研究内容を見てみよう。社会が「自立」を強く要請する一方で、本人にはそれが可能なだけの「自律」能力が備わっていないと、決定を回避してひきこもり状態になるという。その心理としては、自尊心の高さ、人間関係に対する警戒や不安、自己完結的な世界への埋没等が挙げられている。

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以上のような指摘と、男性のひきこもりが極端に多いという現象は、どのような関係があるのだろうか。都内の大学病院に勤務する精神科医に話を聞いてみた。

――今回の調査結果をどのように受け止めましたか。
「ひきこもりの高齢化が確実に進んでいる、という実感が第一にあります。高塚氏の以前の研究と比較してみても分かりますし、他の資料を見ても言えることですが、しばらく前まではひきこもりは、もっと低い年齢層に多く見られました。それが今回の結果では、30代が最多に。つまり、過去にひきこもりになった人々が、立ち直れない状況が続いている可能性が高いです。」

――「自立」と「自律」という論点については、いかがでしょうか。
「概ね賛成です。自立するということは、社会の一員として自律的に責任のある行動をとるようになるということです。社会の中で「自己責任」がかつてないほど強く要求されるようになった現在、「自律」に必要な能力を十分には獲得できていない人々は、「自立」をためらいがちです。自己の確立が不十分であると、職場や就職活動等での挫折も致命的で、立ち直ることが難しくなります。」

――そういう状況の原因は、どのようなものでしょうか。
「昔から言われるように、日本社会の特徴である「甘え」でしょう。この「甘え」の関係は、概して母親と息子との間で見られます。このことが、男性のひきこもりが多い理由の一つではないかと思います。子供は親に甘える一方で、社会に適応しなければならないという圧力の下にあるという葛藤もあります。そこに生じる自尊心から、親に反抗したり、時には暴力を振るったり、といったことが起きやすくなります。ですが、それによって問題が解決されるわけではありません。」

――親にも問題があるということですね。
「親は子供を甘やかすか叱るか、このどちらかに陥りがちです。こういう傾向の背景には、家庭内にひきこもりの人間を抱えているということで、親が世間体に過敏になっているという問題もあるでしょう。子供を甘やかす一方で世間体を気にするという葛藤を、親も抱えているのです。結果として、子供の社会との関係を作り直すどころか、現状を再生産し続けてしまうことになります。」


ひきこもりというと、「社会との接点が皆無」と思われがちだが、むしろ社会との関係性の問題として捉えられるべきなのだろう。ひきこもりは個人の問題だけでなく、社会の問題でもあるのだ。



高橋



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