●更新日 02/28●


事件編


C君にはひとつ悩みがありました。
同じ職場の同僚、A君B君の仲が、ものすごく悪いことです。



犬猿の仲というのはこういうのをいうのでしょう。
顔をあわせると、いがみ合い。口をきこうともせず、にらみ合い。
おかげで、この二人が顔をあわせると、職場の雰囲気が異常に悪くなってしまうのです。

(なんとか仲直りできないものかなぁ……)

そう考えたC君は、A君B君を呼び出し、一席もうけることにしました。
夜の社員食堂にお酒を持ち込み、3人でとことん語り明かすことにしたのです。

幸い、二人ともお酒好き。

酒を酌み交わして一晩語らえば、少しは打ち解けるかもしれないと思ったのです。

しかし……この二人の確執はC君が思っていたより、ずっと深いものでした。

酔っ払った二人は打ち解けるどころか、嫌悪感をむき出しにし、
ついには怒鳴りあいをはじめてしまったのです。


間に挟まったC君は必死にとりなしますが、二人とも聞く耳を持ちません。

「てめぇ! いい加減にしやがれっ! もう我慢できねぇ!」

ついに、B君が席を蹴って立ち上がりました。

「なんだぁ!? やんのかよ、てめぇ!!」

A君も応じて立ち上がります。

B君は置いてあった一升瓶を握り、テーブルの端に叩きつけます。

ガチャーン!

一升瓶は中ほどから割れ、割れ目はギザギザの鋭利な刃物となりました。
B君はそれを手にテーブルを回ってA君に迫ります。

「こらぁぁっ!!」

C君は必死にB君を止めました。

「なにすんだっ! やめろっ!」

幸いB君C君より小柄でした。
体格に勝るC君は、B君をテーブルにおしつけて取り押さえることができました。
B君C君に食って掛かるつもりはないようで、ひとまず大人しくなりました。

C君がホッとして顔を上げると、A君の姿が見当たりません。
見回すと、厨房の方から姿を現すA君が見えました。



なんと、その手には出刃包丁が握られているではありませんか!

「よせぇっ!」

C君は青くなってB君から離れ、A君を押しとどめます。

「やめろっ! 包丁はやめろっ!」

ぐいぐいとA君の体を押し、厨房の出入口まで退かせました。

「落ち着けったら! 何をやってるかわかってるのかっ?!」

C君は懸命にA君を落ち着かせようとします。
しかし、A君の血走った目は、C君の顔を見ていません。
じっと後ろを睨みつけています。


C君が後ろを振り返ると、体を起こしたB君が同じく血走った目でこちらを睨んでいます。
そしてその手には、刃物と化した一升瓶。

(だめだ……っ!)
(一人じゃ、とても二人は抑えきれないっ!)


C君は急いで食堂の出入口へ向います。そこから、大声で助けを求めました。

「だれかっ! だれかぁぁっ!!」

振り返ると、割れた一升瓶を手に、B君が、のしのしとA君の方へ。
もう、A君の目前まで迫っています。
C君は慌てて駆け戻りました。

「やめろっ! B! やめろっっ!」

C君B君の袖首を掴み、思いっきり引っ張りました。


 ……と。


なんの抵抗も無く、B君は後ろに倒れました。
まるで、棒が倒れるように、仰向けにひっくり返りました。

(え?)

虚をつかれたC君が、倒れたB君を見ると、



その左胸には出刃包丁が突き刺さっていました。
深々と。刃の半ばまで。

「……A。」

見ると、A君は放心したかのように、倒れたB君を見つめています。
C君も呆然として、呟きます。

「おまえ……なんてことを……」



その後、大至急、救急車で運ばれたB君でしたが、
手当ての甲斐なく、病院で息をひきとってしまうのでした。


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さて、この事件の裁判員の皆様。
被告:A君に、どんな判決を言い渡しますか?




実際に言い渡された判決は、こちら⇒「判決編」






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