●更新日 01/11●


毛深い人間はセクハラ?JRポスター掲載拒否問題


伝統行事のポスターに裸体の毛深い男性を起用したところ、JRがそのポスターの掲示を拒否したとして、大騒ぎになっている。

写真 掲載を拒否されたポスター

問題のポスターは、岩手県奥州市の黒石寺で行われている伝統行事「蘇民祭」の告知を目的としたもの。駅構内にポスターを掲示することに対してJR東日本は、「不快感を覚える客が多い」との理由で掲載を拒否したという。この行事のポスターは過去数十年作られていて、拒否されたのは今回が初めてとのこと。

写真  写真 過去のポスター

今年のポスターには、ひげや胸毛が濃い男性の上半身がアップで掲載され、下帯姿の男性参加者たちの姿も見られる。この件はテレビのニュース番組でも取り上げられるほどの話題となり、全裸の参加者の画像が掲載されたサイトが、男性性器の写った画像を突然削除するという動きもあった。

JR東日本盛岡支社の佐藤英喜・販売促進課副課長は、「単純に裸がダメというわけではない」とした上で、「特に女性が不快に感じる図柄で、見たくないものを見せるのはセクハラ」とコメントしている。

写真 セクハラ扱いされたモデル男性が反論

この「セクハラ」判断は、果たして妥当なのだろうか。探偵ファイルでは、倫理学の研究者に電話取材した。


――このポスターはセクハラだというのがJRの見解ですが、いかがですか。
その判断は正確ではなかったと思います。これだけを理由に掲示を拒否したというのであれば、JRの倫理基準を疑わざるを得ません。
――では、どこに問題があるのですか。
例えば、ほぼ全裸や露出度の高い女性モデルの全身が写ったポスターも、近年は都会では珍しくなく、駅構内にもあるでしょう。そういうポスターは「美しい」と絶賛されることもありますが、不快に思う人もいるはずです。それでも、大抵は規制されていません。今回の場合は、半裸の男性の上半身のみです。海水浴場やプール等の公共の場でも、男性は一般的に上半身を露出しているので、ポスターに起用された男性の体毛が濃いというだけでセクハラと見なすのは難しいでしょう。
――でも、不快感を抱く人が多いというのは問題があるのでは。
もちろん、公共の場に掲示されるものについて、あまりに不快な内容であれば問題だとは言えます。むしろ、この件では不快とセクハラを直結させている点に議論の短絡があり、それがより重要な問題です。この二つが重なる場合もありますが、そうではないこともあるからです。仮に今回の例が不快の問題に該当すると判断されても、それが直ちにセクハラに当たるとは言えません。
――その違いにこだわる理由を教えて下さい。
人々が不快に思うような、奇抜な格好をして街を歩いている人がいたとします。その人は不快の対象であっても、それは個人の趣味の問題ですから、せいぜい警察官に職務質問を受けたりするくらいで、何らかの罰を受けるわけではないでしょう。一方、セクハラに認定されるような格好だったとしたら話が違ってきます。セクハラ問題では、場合によっては刑事罰を科せられたり、損害賠償を求められたりします。なぜこの違いが生じるかというと、セクハラは「不快」にとどまらず、「危害」もしくはそれに近いものに至ることも含む概念だからです。この二つをきちんと区別して論じないと、危うい議論になるでしょう。当然、あらゆるケースに適用可能な区別があるわけではないですが、個々の事例を判断する時に、こういう区別を念頭に置いておくことが必要です。


セクハラは重大な問題であり、決して見逃されてはならない。
しかし、全てを「セクハラ」という枠に押し込め、本質的なことから目をそらす。
それもまた問題だろう。



高橋



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