●更新日 07/17●


想い出探偵 〜あの街へ連れて行く


前回、「自分が育った街をもう一度見てみたい」という依頼を受けた想い出探偵。
現地で調査を行い、探している街は現実に存在していることがわかった。
依頼者は実際にその目で確認したいということで、早速待ち合わせ場所の東京駅へ。

写真 依頼者の佐々木さんとご対面

「今日は本当に有難うございます。横浜に知り合いがいるわけでなく、もう二度と自分が幼少期をすごした街を見ることはないんだろうなあと思っていました。
今でもあの街は本当は存在していなくて絵本の中のお話かと思っていて・・・今回この目で見られる機会をもらえて嬉しいです。」


早速、彼女が幼少期に過ごした街、横浜市鶴見区へ。
車内では昔の地図を見せながら昔の話を聞く。

写真

まずは佐々木さんが生まれた病院を見てもらおうと彼女が生まれた日本鋼管病院に向かう。
その病院が依頼者が生まれた病院だというのは調査済み。
車を走らせること約一時間、現地に到着し、早速その目で生まれた病院を見てもらった。

写真

「ここが佐々木さんが生まれた病院です」
「ここが自分が生まれた病院ですか。さすがに赤ん坊の頃なので記憶は無いのですが・・・なんか不思議な感覚です」

そう言うと彼女は病院を感慨深そうに眺め、携帯のカメラで写真を撮り始めた。

写真

次に向かうのは横浜から引越する直前の住所、横浜市鶴見区平安町へ。

写真

「お父さんが勤めていた日本鋼管の社宅はここにあったんですよ。今はマンションが建ってしまって社宅はありませんが・・・」
「そうなんですか・・・もう35年近く年も前の話ですから 。当時私はここに住んでいたんですね」

そう言うと彼女は周りを見回し、幼少の頃見た風景がないか確認する。
しかし記憶が呼び起こされることは無かった。
それでも彼女はもう当時の面影は残ってはいない、社宅だった場所にあるマンションをカメラに収めていた。


次はよく遊びに行ったというレコード店。事前の聞き込みで判明した場所へ向かう。
「店員のお姉さんにすごい可愛がってもらったんですよ。その記憶はしっかりとあります」
本町通という商店街にその店は存在したようなので現地へ行ってみる。
しかし―

写真

今はシャッターが降りていて何のお店が入っているかもわからない。看板も無い。
事情を知っている人がいるかと思い、すぐお隣の履物店にお話しを。

写真

「確かにお隣はレコード屋でしたよ。家族でやっていたのだけど、旦那さんが体調を崩されてやめてしまったの。それからずっとシャッターは降りたままなの」
「そうなんですか。レコード屋さんに35年位前、若い女の人の店員さんはいませんでしたか?」
「若い女の方?そういえば娘さんがお店のお手伝いをしていましたよ」

どうやらレコード店は閉めているだけで、経営していた家族の方はここに住んでいるらしい。
早速隣の家を訪ねる。

写真

しかし呼び鈴を押しても誰も出てこない。今は留守のようだ。
ここで家の方の帰宅を待ちたかったが、残念だが時間も限られているので次の場所に向かう。

そして次に向かったのは、平安町の前に住んでいたもう一つの社宅。

写真

「今はJFE(日本鋼管の流れを汲む企業)ですね。やっぱりもう社宅は無いですが・・・」
「はい・・・当時は二階建ての建物だったんです。もう建物は残ってませんね」

ここもダメか・・・と落胆した表情になる佐々木さん。
幼い彼女がこの街を去って35年。やはり35年という時間は、想い出を振り返ることさえ許してもらえない、そんな長さなのだろうか。
徒労にも似た気分を味わいながら来た道を戻り始める。
すると、突然佐々木さんの足が止まった。

写真

「ちょっと待ってください!このガーって音……。私この下をくぐった記憶があります!そう!ガーってうるさかったんですよ!ああ! 思い出しました!私、ここを通ったことがあります。私ここに住んでました!」

「本当ですか!上を走ってるのは首都高で、当時からあったみたいです!」

「祖母が来ていて、一緒に下をくぐっている時に祖母が『ガーってうるさいね』って言いました!
ここを通る時は怖かったなあ・・・!今思うとただの車の音なのに・・・小さかったんですね、私」


記憶にあった場所が存在していて興奮を隠しきれない佐々木さん。
ここに来て初めて、この街に住んでいたことを実感できて嬉しそうだった。

そして最後に向かうのは家族と歩いたという想い出の歩道橋。
商店街の帰りによく家族みんなでその歩道橋を歩きながら周りの景色を眺めたそう。

写真

一緒に歩道橋に上り、周りの風景を眺めていると、彼女は不意に

「ここから見える景色・・・遠くのクレーン。昔見た記憶があります」

写真

「ここも記憶にありますか!やっぱりこの町に住んでいたんですよ」
「はい・・・当時もあんなクレーンがあったんです。変わってないんだあ・・・」

写真

歩道橋から見える景色を感慨深げに見つめる。
「35年近く経ってますよね・・だけどこの景色は覚えてます。そうです、私はこの街に住んでいたんですね・・・」

何か思うところがあるのか、しばらく静かにクレーンを見つめ続ける佐々木さん。
そのまま数分経っただろうか。

「ありがとうございます。大丈夫です」
「そうですか。『想い出』確認できましたか?」
「ええ、私の住んでた街。ありました。絵本じゃなかったです。私ちゃんとこの街で暮らしてたんです。私の『想い出』は絵本じゃなかったんです」
「そうですか!」
「本当にありがとうございました」

写真 依頼完了後、東京駅で見送る

もしかしたら何も感じることなく終わってしまう可能性もあった。
今回記憶に残る場所を発見できたといっても、高架下に響く音と、歩道橋の上から望むはるか遠くのクレーンのみ。鮮明に記憶が蘇ったというわけではない。
そもそも、この街に住んでいたと確認できたからといって今の彼女の生活が変わるわけではないだろう。
ただ、彼女は確かめたかったのだ。
彼女の記憶にある街は決して絵本の中の話ではないということを。


    - vol.01 -  
    自分が幼少の頃育った街を見てみたい

依頼人 佐々木
 
 
想い出探偵01 完了!


―そして数日後、佐々木さんからメールが





〜あなたの想い出お探しします〜
昔行った事があるけど何処だか覚えていない場所、子供の頃遊んだオモチャ、あの時食べた懐かしい店など、あなたの記憶の中の出来事を探して欲しい方は想い出探偵まで




特捜班



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