●更新日 7/22●

不思議な男




だいぶ前、うちにいた社員で
「牛丼が1ヶ月続いても平気だ」
と豪語する村上という男がいた。


過去には牛丼好きが高じて牛丼店の社員だった男である。ある日私が、なぜ探偵になりたかったのか、と聞いたら

「いろんな職業を経験すれば、自分で何かやるときにどれかが生きるじゃないですか。牛丼も探偵も」

という、向上心はあるのだろうが方向が決まっていない奴でもあったが。

ただ、異常な研究心と努力があり、牛丼店ではバイトでありながら、その原価計算から店舗出店のシュミレーション、利益から税金までを計算するという才能の持ち主だったようだ。

「BOSS、知ってますか?牛丼の肉は大体がアメリカからの輸入牛。原価はキロ300円から600円。私のときはibpやkingなんてメーカーの肉が多かったです。もちろん為替によって変わります。ちなみに牛丼の「並」であれば、最終利益は1杯あたり5円くらいにしかならないんですよ。」


聞いてないって。別に。


「で、何でそんなに好きな牛丼店やめたの?」
と聞いたら、
「牛丼って、肉を煮る鍋があるんですけど、それを開けると牛丼のタレが煮えた蒸気がむわって上がってくるんですよ。その匂いに耐えられなくなったので辞めました。今はもっぱら食う専門で。。。たまに、まずい牛丼出してる店があると、指導しちゃうんですけど」
だって。
指導って・・・それは営業妨害じゃないのか?


村上は変わり者だったが、その探究心で調査においてはその実力を遺憾なく発揮した。特に企業調査では、教えなくとも債務の飛ばし先や金融流れの車まで探し出し、あげくには手形のサルベージまでやってのけた。



だがそんな村上も牛丼の食いすぎなのか、最後は栄養失調で入院してしまい、今はなぜか某セキュリティ会社で経理をやっている。この村上は事情があって大学を出られなかったのだが、こういう才能のある人物が世に出ることができる社会になって欲しいものだ。



ちなみに、私は調査中以外では牛丼を食べたことはあまりない。ドラマの探偵と違い、本物の探偵は食事にも気を使う。お気軽、お手軽なものばかり食べていると、探偵としての視野も狭くなるからだ。












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