●更新日 7/19●

失踪夫捜索、そして結末は。。。








「実は、夫は何の仕事をしていたか、わからないんです。」


「どういうことですか?」

私ははやる気持ちを抑え、西田さんに尋ねる。失踪人の調査というのは焦るとろくなことがない。明らかに自殺する目的で失踪している場合を除き、関係者からその場でじっくりと、失踪人や家族内の日々の細かい出来事をどれだけ聞き取れるかがポイントである、と言っても過言ではない。

「夫は、自宅でパソコン関係の仕事をしている、としか知りません。結婚したのは4年前ですが、私も夫も身寄りがないため、お互いの合意だけで結婚したんです。私がネットを始めたのも、その頃でした。夫は、パソコン関係の知識は豊富でした。一流企業からも引く手あまただったと思います。だけど、私にはその仕事内容は教えてくれないんです。何度か聞いていると段々、不機嫌になるので、養ってもらっている身の私としては、強くも言えず・・・」



調査をやっていると、本当に世の中にはいろんな人がいる、と感じるが、その中でもこういうケースは異質だ。もしかすると、単純な失踪ではないのかもしれない、という考えも頭をよぎったが、とりあえず私はその後かなりの数の質問をし、西田さんはそれに答えた。その一部は
・夫は月収300万程度あり、そのうち200万を家に入れていた
・100万円の差額はすべて仕事の経費として機材などに使っていた様子
・贅沢はしない、普通の男性。結婚以来女性の影はない
ということであったが、ネットをやっている以上、どこでどんな人間と知り合っているかわからない。また、いくら技術があるとはいえ、月収300万といえばそれなりの金額だ。

「ブルルル」

携帯の振動。部下からだ。

「聞き込みの結果、レンタカーで大阪方面に向かっていると思われます。本人の免許のコピー、申込書の記載があります。書類を信じれば、どうやら、大阪で乗り捨てるようですね」

電話を切り、奥さんに尋ねる。
「旦那さんはどうやら大阪方面に向かっているようです。大阪近辺で思い当たるところはありますか。共通の知り合いがいるとか」

「そういえば、最近、大阪から夫宛に大きな荷物が来ました。確か○○○○コーポレーションと書いてありました。荷物を空けようとして夫に怒られたので覚えているんです」

ここで私はふと思い立ち、断りを入れて外に出る。京都、大阪の裏情報通、栗林(仮名)に電話をするためだ。

「どうも。渡邉ですが、大阪の○○○○コーポレーションって知ってるかな?」

栗林は陽気に、
「何で渡邉はん、知ってるんでっか?またヤバいことにクビ突っ込んだんかいな。あのな、○○○○コーポレーションはな・・・」

よくしゃべる男だが、意外と口は堅く、情報は確実な男である。10分ほどやり取りを重ね、さらに調査を頼み電話を切る。探偵というのは、人脈やコネが結構物をいう職業である。もちろん、本人の才能と努力、情熱が一番必要なのだが。



「西田さん、今から大阪へ行ってきます。まだ旦那さんがいるかどうか、その○○○○コーポレーションとどういう関係かはわかりません。ただ、必ず手がかりがあると思いますので」

「私も行きます。一緒に連れて行ってください。邪魔はしません。もし、夫がいたら、一つだけ聞きたいんです。
私のこと、本当に愛してたのかどうかだけ」

失踪人の調査の段階では依頼者との同行は基本的に断っていたし、ましてや失踪者である夫が大阪にいるかどうかもわからなかったのだが、このときの西田さんの言葉に心を打たれたのか、ネット友達だったからかは忘れたが、私は


「わかりました。すぐ出ますので、支度をして下さい」


と言っていた。


1時間後、部下1名に補完調査を命じ、他の部下2名を同行させ、車で大阪に向かうこととなった。西田さんの夫がレンタカーに荷物を積み、失踪したと思われる時間からほぼ20時間がたっていた。





−つづく−








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