●更新日 7/18●

行方不明の夫を大追跡−




昨日の続きです。




世田谷区某所。国道から少し入った閑静な住宅街でタクシーを降りた私は、すぐに、西田さん夫妻が住む5階建てのマンションを見つけた。探偵であれば、住所を聞けば迷わずその場所にたどり着けるのは当たり前なのだが。


まず、マンションの周りを急いで1周してみる。これはマンション周辺の「勘」をつかむためだ。5分ほどで周りを調査し、西田さんの部屋のインターホンを鳴らした。あたりはもう暗くなっていた。

初めて会う西田さんは30代半ばの小柄な女性。相当ショックを受けているのか、顔色は悪い、というより顔色が、ない。


「ガルエージェンシーの渡邉と申します」

名刺を差し出すとすぐに中に通される。


「原因が、わからないんです。もし私が嫌なら、理由を聞きたい。渡邉さん以外に、頼る人はいないんです。お願いします。」


リビングに私を案内しながら、西田さんは後ろ向きのまま、私につぶやいた。私は、お茶の用意をしようとする西田さんを呼び止め、

「とりあえず、部屋のほうを先に見せていただけますか」

と言った。西田さんの気持ちをそらして状況をより聞き出しやすくするためもあるが、失踪した、と思われる部屋内を先に見ておきたかったからだ。

西田さんの夫が使っていた部屋に案内される。といってもマンションなので、隣にある部屋なのだが。
中に入って驚いた。引越しの後掃除していない部屋、とでも言えばいいのだろうか。部屋の中身がほとんどない。備え付けの本棚は、さすがに持っていけなかったようだが、それ以外はほとんどきれいになくなっていた。部屋の片隅に、マウスのボールが転がっていたことを除いては。

「私は朝から外出していたんです。帰ってくるとこうなっていて。。。メモが残っていたのですが・・・ケンカをすることもなく、原因がわからないんです。。。」

「落ち着いて、そこに座っていてください。大丈夫ですよ。」
メモを見ながら、私はやさしく言った。

体ひとつ、もしくは身の回りの物だけを持って失踪するケースは何度となく見ているが、今回のようなケースは初めてだった。もし、犯罪に巻き込まれて失踪したのならば、部屋の中身を全部持ち出すような大掛かりなことはやらないだろう。スパイでもない限り・・・と踏んで、「自分の意思での失踪」の線で本格調査を開始する。

私は近くに待機させていた部下に電話で指示を出す。
これだけの失踪であれば、業者を使用したか、もしくはレンタカーを使用したはずである。私は、西田さん宅周辺のレンタカー、運送業者などをすべて調べるように、また、マンションを中心として半径100m以内にあるコンビニなどにそれとなく聞き込みをするように指示を出した。


「旦那様の職業などについて、すこしお伺いしてよろしいですか」

ソファーでうつむいていた西田さんは、顔を上げ、


「実は、夫がなんの仕事をしていたのか、よくわからないんです」


と、寂しそうに言った。





−つづく−








Copyright(C)2002, Fumio Watanabe.All rights reserved.