●更新日 01/16●


餅 VS 掃除機


高齢者や幼児がのどに餅を詰まらせることによる窒息事故が多発している。消費者団体による餅規制を求める声が高まる風潮にあるが、食品において特に衛生上の問題がある場合を除いては各省も強制力のある措置をとれない現状であり、白い悪魔の猛威は今後も衰えることはなさそうだ。

何故この事故が高齢者や幼児に多く見られるかというと、食物を飲み下す能力や反射的に「むせる」能力が低いためだと言われ、そのためにのどに詰まった餅を自発的に除去できなくなるからだ。
よって一般的に奨励される応急処置も他者の手を借りて行うものが目立つ。

最も重要とされるのは早急な119番であることは間違いないが、救急車を待つ間に行うべき代表的な応急処置としてハイムリック法や背部叩打法が挙げられる。だが多くの人が「のどに餅がつまる」と聞いて真っ先に思い浮かべる応急処置は、あの機械を使ったものではないだろうか。

掃除機。

掃除機を口の中に突っ込んで詰まった餅を吸い出す。
ホースの形状といい、吸引力といい、確かに理にかなった方法のように聞こえる。
だが実際に自分の記憶を反芻してみて、どうだろう、実際に映像として「のどに詰まった餅」を「掃除機」で除去している光景を見たことがある人が一体どれだけいるだろうか?

今回は実際にのどに餅を詰め、掃除機でそれが除去可能かを検証する挑戦者達の姿を追ってみたい。


 −実験体 N−
「こんなに伸びるんやぁ!うんまそぅっ!!」


餅は伸びて当然だが、このさも嬉しそうに餅を弄ぶ男が今回の実験体だ。
年齢は二十台前半と推測される。この日も遅刻して上司に叱られていた。きっと馬鹿なのだ。
窒息事故は高齢者などに多いということは先述の通りであって、この男は若者に分類される。
普通に餅を食してものどに詰まる可能性は低いため、今回は丸呑みにしてもらう。

 -検証開始-

 −それでは餅をのどに詰まらせてください。−
 「えっ?食べていいんですか!?」
 −いえ、普通に食べられても困ります。詰まらせてください。−
 「いやー、昨日から何も食べていなくて。光栄です。」
 −日本語がやや間違ってます。っていうかさっさとやれ。−

「ぃやっほう!ご飯だ!!」

男は飢えた野良豚のように餅に喰らいついた。味付けのない素の餅である。IQの低さが見てとれる。
この人間はちゃんと企画の趣旨を理解しているのだろうか…。


「うんめぇっ!」

 −…味わうのではなく、のどに詰めてください。−
 「ご、ごめんなさい、素材の良さが出ててたから…」
 −餅だけですからそれは素材の味ですね、つぅかちゃんと噛まずに飲み込んでください。−
 「はぁ、はい」

指で押し込む実験体

 「はっ、!」
 −どうされました?−
 「はっぇ!ええ」

「ウゴォエッ!!」

 …実験体が飲み込みかけた餅を戻してしまった。

 −遊びじゃないんですから。頑張ってのどに詰まらせてください。−
 「は、はい…。凄い存在感なんです、ラフでソフトで。祖母のよう」
 −ちゃんとやれ。私は定時には帰りたいんだ、−
 「あああっ!」
 −詰まりましたか!?−

  「…、ごめん、飲んじゃった」

 − …………。−

この男はどうやら根本的に終わっているようだ。やり場のない怒りがこみ上げる。
しかし実験体がいないことには検証に差し支えるのだ。私は協力者に助力を求めることにした。

 −探偵ファイル編集長 大住 有氏−
大住氏においでいただいた。


自力で出来ないのならば他者の手を借りるしか方法は存在しない。
無理やりにでも餅をのどの奥、気管にまで押し込んでそれが掃除機で吸いだせるか検証するのだ。

…しかし実験体の男は理解しているのだろうか。
のどに詰まった餅を掃除機で吸いだせるという情報に半透明な部分があるから検証するのだ。
何故検証するかといえば餅がのどに詰まる事故は致死性があり問題になっているからだ。

もしも検証の結果が「掃除機では吸えない」という結果だったら、

自分が逝くことになるということを理解しているのだろうか?


とはいえ、実験体の意向はどうであっても、検証は続くのであるのだが。

 −検証再開−


「ちょっ、強い、強い!」

 さすがは大住氏である。慈悲の片鱗も見せずに餅を人間に詰め込んでいく。
 普通に考えて なかなか出来ることではない。殺人の片棒だ。
 変態である。最悪のサイコ野郎だ。


「死ぬ、死ぬって!」

 苦しそうに悶える実験体。餅はなかなか詰まらない。


ここまでの経緯でお分かりのように、どうにも若者が餅をのどに詰まらせるのは困難なようだ。
実験体には体を楽にして、大きく息を吸い込むように気道を開いておくようにさせた。
それと大住氏の常軌を逸した狂気によって、ようやく検証は大きな山場を迎えることになる。


「訴えてやるっ!殺す!殺すからなっ!」

 もがく実験体の吐息に通常聞こえてはいけない種類の音が混ざり始め、
 顔面が紅潮しはじめた。
 何回かのどの奥から嘔吐のような聞こえ、ほとんど時間を置かず、
 こうなった。

「ひゅー!ひゅー!」

 そして、

パニックに陥る。

傍から見るとまるでドリフのように大げさなジェスチャーで苦しみを表現する実験体。
すでに掃除機を構えている大住氏。どうやら本当に餅がのどに詰まったようだ。
完璧である。
この状態を待ちに待っていたのだ!ここからが本当の検証の時間だ!

 −掃除機を口に突っ込む−

吸引力は「強」

 すかさず大住氏が掃除機を実験体の口に突っ込んだ。
 放射能に頭をやられたサックス奏者のように掃除機にすがる実験体、
 しばし吸引の音のみが響き渡り、


 そして!
 
餅がっ!


餅が掃除機で吸い出された!!


U R L 
EMBED

「詰まった餅は掃除機で吸いだせ」
民間療法は本当であった。いい結果が出せたと思う。よかった。
というか「本当ではなかった」場合の事後処理の問題を考えると本当によかった。
その場合はこの企画は「邪魔な死体、樹海に棄てればバレないか」という企画に移行予定だった。
スコップやレンタカーを用意するのは大変に面倒くさいし、穴を掘るのも重労働だからだ。

最後にこの企画の実験体となった人間にインタビューをしてみたいと思う。


−いかがでした?−
「息が出来ないことに驚いてパニックに陥りました!びっくりした。吃驚!」
−苦しくはなかったと?ー
「酸欠を感じる前に体が動いたという感じです。ドントシンク、フィール!」


 −餅がまだ口の中に見えましたが、本当に詰まっていましたか?−
 「息は出来ませんでした、多分こんな感じだと思います。」

実験体が描いた図解

 −掃除機を突っ込まれた際の感想を−
 「砂漠を三日さまよった後に救援隊がくれたカロリーメイト、水無し」
 −どういうことですか?−
 「こんなもん吸いたくないけど吸わなきゃ死ぬという気持ちを簡潔に表現しました」
 −本当は掃除機を吸いたくなかったと?−
 「いや、吸い口に変なゴミがたくさん付着していた。ちぢれた剛毛とか。」


…いかがであっただろうか?
のどに詰まった餅は掃除機を用いることによって除去できると証明できた。

しかし一部強く補足しておかなければならない部分がある。
まず実験体が若く健康な人間であったこと、またこの検証にはの要素も多いということだ。
のどの粘膜が強い若者は餅詰まりに耐性があることは先述の通り、
高齢者や幼児はもちろんのこと、それ以外であっても絶対に真似しないでほしい。
不幸にも餅をのどに詰まらせてしまったらまず119番。救急隊の指示にしたがうことがベストだ。

また記事の中の画像で実験体がのどに餅を詰まらせた際、
口から餅がのぞいていた。通常に一口ずつ餅を食べ、詰まった場合はこのようにはならないし、
掃除機で吸い出せたというのも口の中に餅の端が残っていたという要因が強く挙げられる。
運がよかったのだ。

しかし、これには実は、理由がある。

無理やり餅をのどに押し込んだわけであるが、その量、

実は切り餅四個分。

気管どころか、

食道全部埋める気だった。



追記

掃除機の掃除がたいへん。



ニノマ



◇上記のタグを自分のサイトに張ってリンクしよう!
探偵ファイルのトップへ戻る